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Netflixで209ヶ国配信のミニ映画のロゴ制作依頼が来た話「 SOL LEVANTE 」

2023/12/07加筆
2019年年末~2020年に起きたお話を3年ぶりに一番上に。
掘り起こしました。
2021/3月「VFX-JAPANアワード2021」にて「Sol Levante 」が「先導的視覚効果部門 最優秀賞」受賞しております。
世の中いつ何時何が起こるかわからないものです。可能性だらけ、出会いがもたらす機会、新しい風景、というお話になります。

2023/09/10加筆
これは2020年4月からNetflixでオリジナルアニメ作品として190カ国世界配信されているアニメ作品のタイトルロゴ制作のお話です。監督は齋藤瑛氏。作品はプロダクションI.GとNetflixの共同制作です。世界初の4K HDR手描きのアニメーション作品として日本から発信しようというプロジェクトでした。

SWITCHによる齋藤監督率いる制作チームのインタビュー記事はこちら。
齋藤瑛監督は、押井守監督の作品の現場で大活躍し続けてきている方です。

齋藤瑛監督サイトはこちら。


それは突然に来た!

私に起きた突然の出来事をお話させていただきます。
2019年の12月に突然それは起きました。私は絵描きでありつつも近年ほぼ休業で、現在はセッションやワークをアートワークとしてメインに活動しています。そんな私の文字や絵を約10年ほど前に見ていたという齋藤監督から突然の緊急依頼が来ました。

アニメの制作をしている齋藤監督は、世界初の4K HDRの手描きアニメーション作品の制作が終盤に差し掛かっている頃でした。その監督から急に「作品のタイトルロゴを描いてくださいませんか」とお願いが来たのです。

締切りまで、なんと5日間。いろいろ巡って私の所にやって来たお話のようでした。監督の納得のいく文字が欲しいという要望も強く話は転々とし、最終的に自分で描くしかないのか、というところまでいったそうですが、ぎりぎりなだけに考え抜いて思い切って声をかけていただいたとのこと。
さらに作品自体は最終仕上げの段階へと入っていく過程で、すでにこの時点で公開されていたメイキング動画(2019年秋に公開済だった)に入っている作品タイトルのロゴは仮のものとして入っている状態であって、何とかぎりぎりで差し替えたいとのことでした。

あまりに急なこと過ぎて驚いたのですが、ともかく早速資料を拝見させていただくことになり資料を送っていただきました。監督の中でイメージの柱となっているのは「縄文」「神話」「東方の太陽」「夜明け」ということ。あとはお任せする、自由に描いてみてくれ、とのことでした。この段階で私が見たのは短いメイキング映像のみ。
さて、いったいどうするんだ? どうなるんだ? 正直冷や汗状態でした。


発表されている物語のあらすじ

辿り着いた者の望みを叶えると言い伝えられる「聖地」を探して、ソワフ(主人公)とオブリヴィオンは遺跡を暴きながら旅をしている。ある時「遺跡の守護者」と「聖地の四大精霊の怒りに触れてしまった二人が次第に追い詰められていく、が…。というお話です。
ですが、この時点で監督はまだまだ全てを明らかにはしていません。長尺での展開が可能な物語となっているようです。今回の作品としての4分間の映像は、その物語のダイジェスト版と言えるでしょう。

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sanaが描いたタイトルロゴです。
いくつかの画像にロゴを配置したものを特別に監督から送っていただきました。
こちらで記録の意味も含めて掲載させていただきます。
ソワフ(主人公)が弓を射る瞬間の場面です。
画像2
タイトルが入った別バージョン。
ソワフと共に旅をしているオブリヴィオンが発動しているところ。


手描きのロゴ、無事に納品へ

資料を元にイメージの海の中へと私はキーワードを次々に放り投げます。
その後数日間、何度も何度も頭の中に描いては消すということを繰り返して「違うなぁ、これはないんだよなぁ」ということを重ねて、実際に紙に落としてみるとやっぱり違います。明日の朝には監督がやって来るという、行き詰まるところまでいくと、ふっと静けさがやって来て、やがて突然その瞬間がやって来ます。
「あっ、これ」と思う映像が急に目の前に現れて広がっていきました。
やって来たそれを紙に落とします。落とそうと意思して筆を持ち、紙に向います。朝までかかるか、と思う自我がこの時点ではあるのですが、いざ筆先に集中して紙に向うと、1枚目、2枚目、3枚目というところで終了しました。これは私が絵描きをしていた時代の作品の生み出し方の風景です。

2019年12月中旬、その日の朝に和紙に筆で描いた作品を監督に直接お渡ししました。机の上で広げて見た瞬間の監督の反応は今でも覚えています。そこからは後の全て(データ化)をお任せしました。

今回のこの作品は約4分。なんと台詞はありません。その代わりに特別に用意されたのは音楽、音響です。作曲も今回特別にハリウッド映画やNetflixの作品で活躍中の女性作曲家が書き下ろしとなりました。さらに生のオーケストラを特別に編成して録音するという豪華版。音響もハリウッド映画でヒットした日本でも有名な作品で活躍中の方々が多数参加してロスにあるスタジオで絵と音を合わせて最終調整、そして完成へ。齋藤監督もこの時には日本のNetflixの方と共に現地入りしていて、そのお話を後日聞かせていただきました。


そして新しい時代に向けて公開、世界配信へ

画像3
作品の中でタイトルが消えていく過程の一コマ

想像もしないサイズのお話に縁して運ばれて、とうとう世界同時配信の日は来てしまいました。それまで見る機会が無かったので、世界同時公開の時に私は初めて作品を見ることになりました。
日本において、最後にもう一手間かけることになって、その年アカデミー賞受賞作品の編集をしていた方を日本に呼んで、タイトルロゴの文字が徐々に消えていく風景などが演出されたそうです。

そしてこの時点でもう一度私は驚かされます。タイトルの登場する場面が、映画開始または終了時のエンドロールとかでは無く、お話の中でのとても重要過ぎる部分だったのです。

「そ、そ、それ、聞いてないよ!」
としばらく私は固まっていたのでした。先に詳しく説明されていたら描けなかったかもしれない…、と思いました。

それがどういうことなのかは、作品を観ていただいた方にはきっとわかっていただけると思います。そういう流れの中にあるタイトル表現だとは聞かされておりませんでした。これよく通ったな、と、冷や汗の連続です。

エンドロールには、メインタイトルデザインということで本名で名前を出していただきました。エンドロールに名前が出るなんていうことは、生まれて初めての出来事です。これからもう無いであろう体験です。

様々な事件の連続も山のように有り、様々なことをなんとか乗り越えて「SOL LEVANTE」はようやく誕生したそうです。たくさんの工程を経て、たくさんの方々の目に触れて、お話しを聞くほどに最後の最後まで変更無しでこのタイトルロゴが残ってくれたことは私にとっては奇跡のようで、とても有り難い経験となりました。

加えて、当初予定されていた公開直前に世界中が新型コロナウィルスによる大変な事態となり、配信延期ということもありました。4月の配信後においても、様々な発表の機会や会議、イベント等が数々予定されていたようですが、その後も中止となっています。

今回のこの作品の挑戦が、次の時代の新しいアニメの制作や発表へと繋がっていきますように。作品を観る側としてこれからを楽しみにしています。
2023年の9月の現在もこの作品はNetflixで会員の方なら視聴可能です。
気になったという方がいらっしゃいましたら、ご覧いただけたら嬉しい限りです。

最後に、この度は齋藤瑛監督、他スタッフの方々、プロダクションI.G様、Netflix様に大変お世話になりました。心よりお礼申し上げます。皆様の今後の更なるご活躍をお祈りしております。ご縁をありがとうございます。


直接お取引をさせていただいた企業様
株式会社 プロダクション I.G


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水野早苗 sana

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