マガジンのカバー画像

こわいおもいで

6
一部創作のホラー短編集です。 供養のためにときどき書いてます。
運営しているクリエイター

#夏の怪談

『トンネル』―帰りしな

『トンネル』―帰りしな

「…さっきのじーさん、何やってん……」

止まった車のなかで、サトシがつぶやく。みんな思っていることだったが、誰も応えられるはずもない。放心状態だった。

しばらく沈黙が続いた。やがて、ハルが涙声でつぶやく。

「あのトンネル…なんかわからへんけど…やばい気配がいっぱいしてた…トンネル入ったときから、ずっと見られてた……車のなかに入ろうとしてて…」

それ以上は言葉にならないのか、ハルは押し黙って

もっとみる
『トンネル』―行きし

『トンネル』―行きし

この季節になるといつも思い出す。
私が大学3年生だったころ、バイトのみんなで行った肝試しのことを。

当時のバイト先で、男女六人で仲が良かった。
私、バンギャのハル、かわいい系のユミ、インテリのケン、野球好きのユウ、お調子者のサトシの六人で過ごすことが多かった。春には花見に行き、夏にはビアガーデン、秋はフットサル、冬はスノボに行くのが恒例。
それ以外にも、仕事終わりにはしょっちゅう飲みに行って、大

もっとみる
『閉め忘れ』

『閉め忘れ』

しつけに厳しかった母から言いつけられていたことのひとつに、「部屋の戸を閉めて寝ること」というのがあった。
よくわからないルールだったが、そういうものなのだろうと律儀に従っていた。私としても、狭い家のなかで戸を一枚隔てるだけでも、自分の空間が守られるような気がして、都合がよかった。

ある日、母が夜勤に出ることになり、私はひとりで夜を過ごすことになった。小学2、3年生のころだったと思う。当時からどこ

もっとみる
『カーナビ』

『カーナビ』

私が3歳か4歳だったころ、曾祖母が亡くなった。
遺影で初めて顔を見た(たぶん覚えていないだけで、曾祖母に会ったことくらいはあっただろう)曾祖母の死を理解できていなかった私は、通夜の早々に眠ってしまい、母は眠る私を車に乗せ帰宅することにした。
ここからは、後になって母から聞いた話だ。

曾祖母の家は自宅から遠い内陸部にあり、行くにも帰るにも山をいくつか越えなくてはならない。
方向音痴な母は、カーナビ

もっとみる