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「ワイヤレス電源」とは? パワエレで双方向給電もできる!

このnoteのクリエイター名(アカウント名)は、ワイヤレス電源技術研究センターですが、この「ワイヤレス電源」とは電磁誘導または静電誘導を使って結合したワイヤレス給電システムのことを指します。
このように「ワイヤレス給電」ではなく「ワイヤレス電源」と呼んでいるのには明確な理由があります。

この記事では、「ワイヤレス電源」と呼ぶ理由を説明しながら、「ワイヤレス電源」がどのようなシステムであり、そしてワイヤレス電源の課題をパワエレ技術によって解決する方法を説明します。

また、本記事の内容は、以下のような方々にも役立ちます。

  • ワイヤレス給電の方式分類を明確に理解したい方

  • パワエレ技術を用いてワイヤレス給電の開発を成功させたい方

  • 磁界共振(磁界共鳴)という現象が理解できずに困っている方

1.ワイヤレス給電の2つの方式

ワイヤレス給電の方式分類を調べると、様々な分類があり資料によってバラバラです。この分類方法が定まっていないことがワイヤレス給電の理解を難しくしている原因の1つだと私は考えています。

そこで私は、ワイヤレス給電の方式をシンプルに次の2つに分類しています。
 ● 誘導結合方式
 ● 電磁波放射方式

それぞれの特徴をまとめた表を以下に示します。

ワイヤレス給電の方式分類表

この2つの方式の違いは明確で、誘導結合方式は負荷を接続しなければエネルギーを消費しない一方、電磁波放射方式は負荷の有無に関係なくエネルギーを消費(放射)します。

また、誘導結合方式は、電磁誘導現象または静電誘導現象によって空間を結合してエネルギーを送る方式であり、電磁誘導(磁界結合)方式と静電誘導(電界結合)方式に細分化することができます。

一方、電磁波放射方式は、送信機(アンテナなど)から放射された電磁波を受信機(アンテナなど)で受け取ることでエネルギーを送る方式です。使用する電磁波の波長(周波数)に応じて、マイクロ波方式やレーザー方式などに細分化することができます。

そして、この記事のテーマである「ワイヤレス電源」とは誘導結合方式のワイヤレス給電のことです。

2.誘導結合方式をワイヤレス電源と呼ぶ理由

ワイヤレス電源が誘導結合方式のワイヤレス給電という意味であれば、わざわざ「ワイヤレス電源」という違う呼び方をする必要はないと思われるかもしれません。

しかし、「ワイヤレス電源」と呼ぶのには理由があります。
それは、一般的に誘導結合方式のワイヤレス給電のコイルにはコンデンサが接続されておらず、コイルにコンデンサが接続されている場合には磁界共振方式と呼ばれているためです。
私が考えている方式分類には、コンデンサが接続されているかどうかは関係ないため、磁界共振方式という分類はありません。そのため、誘導結合方式と言ってしまうとコンデンサが無いものと誤解される可能性があります。
そこで、「ワイヤレス電源」と呼ぶことで、コンデンサの有無に関係なく誘導結合で電力を送る方式であることを明確にしています。

また、「ワイヤレス電源」という呼び方は、パワエレ技術によって実現できる電源システムであるということも表しています。
パワエレ技術による電源システムは、パワー半導体・コイル・コンデンサ・抵抗・トランスなどが主要な構成要素であり、電圧や電流を制御するためにパワー半導体のスイッチングを使用します。
特に、ワイヤレス電源の送信コイルと受信コイルは、電磁誘導によって結合するトランスであることを理解しておくことが重要です。

以上のように、共振回路やコンデンサの有無に関係なく、パワエレ技術で実現できる電源システムであることを明確にするために、誘導結合方式によるワイヤレス給電を「ワイヤレス電源」と呼びます。

3.ワイヤレス電源に特有の課題

ワイヤレス給電の課題は「効率が悪いこと」と言われることがありますが、これは正確ではありません。

確かに、電磁波放射方式のワイヤレス給電は、負荷が必要としているエネルギーとは関係なく電磁波のエネルギーを放出するので、エネルギー損失が大きく効率は悪いと言えます。しかし、これは原理的にエネルギー損失が発生する方式であり、効率が課題と言うのは正確ではありません。

一方、電磁誘導方式のワイヤレス電源は、送電コイルと受電コイルが結合したトランスを使っていますが、このトランスの結合係数が低いため、負荷へ十分な電力を供給することが難しくなります。これがワイヤレス電源の最大の課題です。
この結合係数が低いことでエネルギー損失が増えるわけではないため、効率は低下しません。

また、通常の電源で使用されるトランスの結合係数は変化しませんが、ワイヤレス電源ではコイルの位置ずれによって結合係数が大きく変化することも課題となります。

以上のように、ワイヤレス電源に特有の課題は「コイルの結合係数が低くかつ変動するため、安定した電力供給が難しい」と言えます。

なお、効率も課題の1つではありますが、効率は全ての電源システムに共通する課題であって、ワイヤレス電源に特有の結合係数の問題とは直接関係しません。

4.課題解決へのパワエレ技術の活用

ワイヤレス電源の「コイルの結合係数が低くかつ変動する」という特性は、受電電圧(受電コイルの電圧)の変動として表面化します。
コイルの位置ずれによって受電電圧が変動することは容易に想像できると思いますが、結合係数が低いために、負荷の消費電力の変化によっても受電電圧は大きく変動します。

この受電電圧は、ワイヤレス電源の受電回路の入力電圧になります。受電回路は負荷へ電力を供給する電源として動作しますが、入力電圧の変動幅が大きいと電源の設計は難しくなり、負荷へ安定した電力供給が困難になります。
したがって、ワイヤレスで安定した電力供給を実現するためには、受電電圧の変動を抑制することが重要になります。

パワエレ技術を用いることで、この課題を解決することができます。
ほとんどのワイヤレス電源の受電回路には、交流/直流変換のためにダイオード整流回路が使用されていますが、これをパワエレ技術によって自励式AC/DCコンバータに置き換えることができます。

ダイオード整流を自励式AC/DCコンバータへ置換

このAC/DCコンバータを使えば、受電電圧を安定(定電圧)に制御できます。この方法は、電力系統の分野では広く使われているSVGやSTATCOMを使った電圧制御と同じです。

自励式変換装置を用いて無効電力を補償する無効電力補償装置は日本では,自励式SVC あるいはSVG (Static Var Generator) , 欧米ではSTATCOM (STATic synchronous COMpensator) と呼ばれている。

電気学会 用語解説

つまり、パワエレ技術をうまく活用することで、結合係数が低くかつ変動しても受電電圧の変動を抑制できるため、負荷へ安定した電力供給が可能となります。

また、ダイオード整流回路では電力源から負荷へ給電する「力行」しかできませんが、自励式AC/DCコンバータでは負荷側から電力を逆方向へ供給する「回生」も可能です。すなわち双方向の給電が可能であり、例えば電気自動車のバッテリを充放電させるV2G/V2Hをワイヤレスで実現することができます。

V2H,V2Gとは
電気自動車に搭載された蓄電池のエネルギーを宅内で利用することをV2H(Vehicle to Home)という。 また,電気自動車を電力系統に連系し,車と系統との間で電力融通を行うことをV2G(Vehicle to Grid)という。 電気自動車を移動手段として使わない時に,車に搭載された大容量の蓄電池を電力貯蔵設備として利用する点が共通している。

中国電力 エネルギア総研レビュー 第18号 技術用語解説 より

5.まとめ

以上をまとめると、私がワイヤレス電源と呼ぶ理由は、ワイヤレス電源がパワエレ技術で構築できる電源システムであることを明示するためです。
そして、パワエレ技術を活用することで、受電電圧制御によって安定した電力供給が可能であり、さらに双方向の給電(充放電)も実現できます。

特に電力容量が数kW以上のワイヤレス給電では、受電回路にダイオード整流ではなくAC/DCコンバータを採用することが必須だと私は考えています。

もし、ダイオード整流で目標性能を達成できない場合は、ぜひAC/DCコンバータで受電電圧を制御することを検討していただければと思います。
なお、受電電圧の制御方法などの詳細技術については、また別途解説する予定です。

参考

1. 私が試作した双方向に給電できるシステムの概要については、以下の動画(講演)で説明しています。


2. 私が考えているワイヤレス給電の方式分類は、2016年(7年前)から一切変わっていません。


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