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私がワイヤレス給電の技術情報を発信する理由

私は、パワーエレクトロニクス技術の専門家として、製品開発のサポートや技術者の育成に従事しています。また、ワイヤレス給電においてもっとパワーエレクトロニクス技術を活用する必要があると考えています。
特に数kW以上の中大容量のワイヤレス給電が普及しない主要原因は、コイルの位置ずれや負荷変動に応じた安定した電力供給ができないためですが、この課題はパワーエレクトロニクス技術によって解決できます。

特に、次の2つを促進したいと考えています。
 ◆電気自動車のワイヤレス充電の実用化
 ◆ワイヤレス給電の設計解析に必要な電磁理論の理解
そのため、パワーエレクトロニクス技術に基づく独自の設計技術や回路特性の解析結果などの情報を、技術者や研究者の皆様に提供していきますので、参考にしていただけたら幸いです。

今回の記事では、この2つをなぜ促進したいのかについて説明します。

電気自動車のワイヤレス充電の実用化

実用化はいつになるのか?

2012年4月、国内のある大手自動車メーカーは、2年以内にワイヤレス充電可能な電気自動車を発売すると発表しました。
その後、この自動車メーカー以外にも、様々な企業から、電気自動車のワイヤレス充電を3~5年後に実現するという発表がありました。しかし、この記事を書いている2023年4月現在、残念ながら国内で販売されている電気自動車やプラグインハイブリッド自動車は、ワイヤレス充電に対応していません。
2025年に実用化すると発表している企業もありますが、現在のままでは、2025年には「実用化は2028年以降」と言っている可能性が高いと私は考えています。

実用化にはパワーエレクトロニクス技術の活用が不可欠

実は、私は当初からワイヤレス充電を数年で実用化するのは難しいだろうと予想していました。
この予想は、どのメーカーも「パワーエレクトロニクス技術を十分に活用した設計になっていない」ためです。特別に難しい技術の話ではなく、パワーエレクトロニクスの専門家であれば、受電回路の交流/直流変換はダイオード整流器ではなく自励式整流器(コンバータ)で制御することを普通に思いつくはずです。
携帯電話などの小容量の充電であればダイオード整流器でも大丈夫かもしれませんが、電気自動車用の中大容量(数kW以上)の充電システムでは、パワーエレクトロニクス技術を使った自励式整流器(コンバータ)で制御する方が、安定した電力供給に有利であることは明らかです。
しかし、どのメーカーも交流/直流変換にダイオード整流器を採用しており、これではワイヤレス充電の実用化は困難だろうという私の予想通りの状況になっています。

講演でパワーエレクトロニクス技術者へ呼び掛け

このような状況の中、私は2015年にパワーエレクトロニクス技術者向けの講演(PSIMユーザ会)で、ワイヤレス給電の理論とパワーエレクトロニクス技術を活用することの効果を開発事例と合わせて説明し、最後に電気自動車用のワイヤレス充電の実用化について話しました。

ワイヤレス充電の実用化は2018~2020年と言われていることを説明

2015年8月の電子デバイス産業新聞によると、実用化は2018〜2020年と予想されていましたが、当時から私は実用化のためにはパワーエレクトロニクス技術をもっと活用しなければならないと考えていたので、講演の最後に「我々のパワーエレクトロニクス技術を結集して2018年に実用化を必ず実現しましょう!」と呼びかけました。

この講演の様子をYouTubeで公開しています。なお、下のYouTubeリンクは、講演の最後に実用化の話をしているところから再生されます。

実用化を実現するために活動を継続します

私は電気自動車のワイヤレス充電の実用化には、パワーエレクトロニクス技術を活用した自励式整流器(コンバータ)での制御が必要だと提案してきました。
この考え方を広めるために、講演以外にも学会発表、技術雑誌への寄稿、YouTubeなど、様々な取り組みを進めてきましたが、私の力では実用化に至っておらず、ワイヤレス充電が現在でも実用化されていないことに非常に悔しい思いをしています。
しかし、これからもあきらめずに情報発信などの活動を続け、実用化の実現に貢献していきます。

ワイヤレス給電の設計解析に必要な電磁理論の理解

パワーエレクトロニクス技術を活用するのは難しいのか

ここまで説明したように、自励式整流器(コンバータ)を使用することによって、ワイヤレス給電を安定に制御することができます。これは、パワーエレクトロニクスが専門の技術者にとって、特別な方法ではありません。

私が出願した特許の審査でも、特許法第29条第2項の規定(発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が、すでに知られている技術から容易に考え出すことができる発明は特許にならない)によって、特許にはなりませんでした。

特許審査官の「容易に考え出すことができる」という判断に異論はありませんが、実際には、ワイヤレス給電の受電回路に自励式整流器(コンバータ)は採用されておらず、研究論文もほとんど見つかりません。

なぜでしょうか?本当は、容易ではなく難しいということなのでしょうか?

理論的な理解不足の問題

この自励式整流器(コンバータ)が採用されない理由として、様々な要因が考えられますが、単純に言ってしまえば「ワイヤレス給電における電磁現象やその理論的な理解が不十分である」ということだと私は考えています。

例えば、ワイヤレス給電では「磁界共振」という新しい専門用語が使われますが、これは従来の電気工学において「LC共振」や単に「共振」と呼ばれる現象と同じです。しかし、新しい用語が使われることにより、異なる現象だと誤解されることがあります。
また、ワイヤレスであることが電力伝送の効率を低下させる原因にはならないにもかかわらず、あたかもワイヤレス給電で電力伝送するためには効率を向上させる必要があるかのような勘違いをさせる表現が、WEB上の記事だけでなく学術論文でも見受けられます。

このような誤解があるために、従来のパワーエレクトロニクス技術である自励式整流器(コンバータ)をそのまま使うことができるという説明を聞いても、受け入れられないのではないかと思います。

正確な電磁気理論の理解促進

以上のように、パワーエレクトロニクス技術を活用して、安定した電力伝送が可能なワイヤレス給電システムを開発するためには、正確な電磁気理論の理解を促進することが重要です。
このような理解を共有し、製品開発や技術談義ができる仲間を増やして、ワイヤレス給電技術を発展させるために、引き続き設計技術や回路解析結果などの情報発信に取り組んでいきます。


情報発信は、noteとYouTubeを使っていく予定です。


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