2024/04/01 同志社大学の文系数学を解いてみた2024
記念すべき毎日投稿1日目です。今日は2024年度の同志社大学(全学共通日程文系)の入試問題を解説しようと思います。制限時間は気にせず解きましたが、ぜんぶで75分だと知って驚きました。この量だったら100分くらいあってもいい気がします。
問題
河合塾による解答速報を踏まえて、個人的に問題を TeX で起こしたものになります。たぶん大丈夫だろうと考えて著作権的なことを考えていませんが、危なそうであれば取り下げます。
解説
第1問⑴ 三角形の面積の基本中の基本は「底辺×高さ÷2」。
高校数学では、三角形の面積公式として次の8個をあげることができます:△ABCにおいて
・3辺を $${a = \textrm{BC}、b = \textrm{CA}、c = \textrm{AB}}$$、
・外接円の半径を $${R}$$、
・内接円の半径を $${r}$$、
・$${\overrightarrow{\textrm{AB}} = (p, q)}$$、$${\overrightarrow{\textrm{AC}} = (r, s)}$$
・$${\alpha = p + qi}$$、$${\beta = r + si}$$ (複素数)
とおくとき、面積 $${S}$$ は次のように表される:
$${S = }$$ 底辺 $${\times}$$ 高さ $${\div 2}$$
$${\displaystyle S = \frac{1}{2}ab \sin C = \frac{1}{2}bc \sin A = \frac{1}{2}ca \sin B}$$
$${\displaystyle S = \sqrt{s(s - a)(s - b)(s - c)} \quad \left ( s = \frac{a + b + c}{2} \right )}$$
$${\displaystyle S = \frac{abc}{4R}}$$
$${\displaystyle S = \frac{1}{2} | ps - qr |}$$
$${\displaystyle S = \frac{1}{2} \sqrt{| \overrightarrow{\textrm{AB}} |^2 | \overrightarrow{\textrm{AC}}|^2 - (\overrightarrow{\textrm{AB}} \cdot \overrightarrow{\textrm{AC}})^2} }$$
$${\displaystyle S = \frac{1}{4} | \alpha \overline{\beta} - \overline{\alpha} \beta | = \frac{1}{2} | \textrm{Im} (\alpha \overline{\beta}) |}$$
$${\displaystyle S = \frac{r(a + b + c)}{2}}$$
1は小学生のときから親しんでいる公式です。数学Ⅰでは、三角比を定義することで高さを斜辺 $${\times \sin}$$ として表し、1を2の形に拡張します。三角比はまず鋭角の場合に定義されますが、高さを表せることから面積に応用が利くとなると、まさに本問のような鈍角の場合にも拡張したくなってきます。そのためには、頂点から底辺に向かって垂線を下ろしてできる直角三角形に注目し、$${180^{\circ} - \textrm{鈍角}}$$ のときの値を借りて鈍角の三角比とすればよさそうです。この観点から見ると、覚えづらくて(似たようなのが多すぎて)多くの高校生を悩ませる公式 $${\sin(180^{\circ} - \theta) = \sin \theta}$$ は極めて自然な要請となるわけです。また、3~8に挙げた諸公式は、いずれも状況に応じて2を変形することで得られます。
これらをバラバラに覚えようとするのではなく、有機的な繋がりをもって頭に入れられれば理想的だと思います。
数学を長く勉強していると、知識がつき経験を多く積んでいける分、素朴なものの見方ができなくなっていくことがあります。多くの受験生は下に挙げる答案でいうところの解法2を選び、「$${15^{\circ}}$$ の三角比を聞くなんて重箱の隅をつつく悪問だ」「ただ計算が面倒くさいだけの問題だ」という感想を持ったかもしれません。しかし本問は、小学生のころから馴染んでいる素朴なものの見方さえできれば高校数学の内容すら必要としない、ある意味で易しい(優しい)出題であるといえます。「角度の情報が多いときには正弦定理」みたいな標語に染まって自然な見方ができなくなっているとすれば、非常にもったいない気がします。
第1問⑵ 未経験にも易しく積分方程式の入門にちょうどいい。
微積分というと、グラフを描いたり、最大最少を求めたり、面積を求めたり…という問題が中心で、本問のような積分方程式の問題まで対策が行き届いている受験生はそう多くなく、難しいわけではなくても適度に差がついているのではないかと想像します。
積分方程式の取っつきにくさは、具体的な関数の形が与えられないまま理論だけで話を進める点と、文字がいっぱい出てきて変数と定数の区別に困る点にあると思います。例えば、典型的な解法でよくある
微分積分学の基本定理 $${\displaystyle \frac{d}{dx} \int_c^x f(t) dt = f(x)}$$ を用いる($${c}$$ は定数)
変数を積分区間に含まない定積分 $${\displaystyle \int_a^b f(t) dt}$$ は定数なので文字で置く(これは見た目をスッキリさせるためのもので、手間を気にしない人や慣れている人には不要な操作でもある。漸化式を解くときに $${\displaystyle b_n = \frac{a_n}{3^n}}$$ とか $${c_n = a_n - 3}$$ などと置き直すのに似ている)
変数が被積分関数に含まれているときは外に出す(これも積分変数とそれ以外の文字との区別がつくなら必要ない操作である)
など、このあたりの手法が最初はなかなか取っつきにくく厄介です。最終的には理屈をわかる必要があるものの、最初は具体的な関数を使ってイメージを作るところから始めたほうがよいと思います。微積分学の基本定理は入念に指導すると思いますが、多くの場合、積分区間に変数を含むものよりも含まないもののほうを難しく感じている子が多いように思います。
本問の場合は、関数 $${f(t)}$$ が $${1}$$ 次式であると問題で与えてくれていて、変数を積分区間に含む形なので、よくわからなくても代入して定積分を計算することで解けてしまいます。そのため、初めて積分方程式(微積分学の基本定理)を扱うときの導入としてちょうどいいと思いました。慣れてきたら、多項式が何次式かを与えず、与式から最高次の次数を決定する小問を追加してみてもいいかもしれません。
ちなみに、大学以降の解析学では、物理的な現象を表す方程式の解を記述するために積分方程式が頻繁に現れます。高校数学(特に数Ⅱ)ではこういうことを考えないのに問題だけ出てくるため、マニアックな存在に成り下がっているような気もします(数Ⅱの複素数とかもそうかもしれませんね)。受験に追われている生徒に詳細な話をする余裕はないかもしれませんが、豊かな研究対象が先に広がっていることを紹介することにも大きな意味があると思います。
第1問⑶ 記数法が分かれば易しい。天丼なので差が開きそう。
位取り記数法を理解できているかを問う問題です。多くの受験生が苦手意識を持っているであろうことは想像に難くなく、
まったく手が付けられなかった受験生
なんとか $${\fbox{ \quad オ \quad }}$$ には手が付けられた受験生
最後まで解ききれた受験生
に大きく振り分けられたと想像します。入試問題としてはよく機能したのではないでしょうか。
1・2のケースの両方に懸念されるのは、なんでもかんでも十進法を経由して考えないと気が済まない状態になっている恐れがあるということです。
例えば直線の方程式を「$${y = ax + b}$$」という形で表すことにこだわって「$${ax + by + c = 0}$$」に馴染めずにいる、みたいなケースも類似のものと言えるでしょう。 第1問⑴でも触れたように「定義できる範囲を拡張する」という営みは数学のあらゆるところに現れます。その際、今まで当たり前だと思っていたものを疑ったり崩したりするため、わざわざそんなことを考える必要性が理解できなかったり心理的な抵抗が生まれたりすることもあるかもしれません。位取り記数法自体が極めて難しいわけではないのです。 最初は慣れないかもしれませんが、常に十進法と比較しながら手を動かしてみることが肝心かと思います。
第1問⑷ 真数条件は問題文で与えるべきか気づかせるべきか。
対数について考える際、真数条件と底の条件を確認することは確かに大事です。特にこの問題では、その確認を怠ると最後の $${\fbox{ \quad コ \quad }}$$ を間違えてしまうという少し意地悪な出題になっています。しかし、この問題を踏まえて考えたいのは、真数条件や底の条件について、問題文で言及することなく受験生に自力で気づかせたいという考えは果たして適切なのか?ということです。
高校数学で「定義域」といったときには「その関数を定義しうる範囲の中で最も広いもの」を指すという暗黙の了解があります。例えば $${\log_2 x}$$ の定義域として $${x > 0}$$ 以外を指すことはほぼないといっていいでしょう。ところが、この慣習は高校数学に特有なものに過ぎまません。本来は、定義域にある任意の入力に対してただ一つ出力が決まりさえすればOKです。すなわち、関数の定義域というのは「いつも最も広い範囲で定義するという決まりがある(したがって特に言及しなくても皆が共有できる)ものではなく、定義する人が『この範囲で考えます』と宣言するべきもの」なのです。例えば $${\log_2x}$$ を「正の有理数全体」の上で定義しても構わないわけです。定義域をどう設定するかは定義する人に課された義務であり、受験生に「定義域を求めなさい」と課すのはお門違いです。
本問においては $${\log_8(2x - 3)}$$、$${\log_2 x}$$ をそれぞれ $${\displaystyle x > \frac{3}{2}}$$、$${x > 0}$$ の範囲で考えることが暗黙の了解となっていますが、個人的には
とするなど、底の条件や真数条件が満たされる範囲で考えることを確認する出題にすべきではないかと考えます。例えば他にも
「$${\cos 3\theta}$$ を $${\cos \theta}$$ の多項式で表せ」という問題に対し
「三倍角の公式より $${\cos 3\theta = 4\cos^3\theta - 3\cos \theta}$$」
とだけ書いた答案を評価しない、あるいは「公式一発で解ける問題が出題された場合はその証明も含めて問われている」と解釈させる確率の問題で「サイコロを振ったとき、各々の目が出る確率は同様に確からしいとする」という仮定を書いていない
というのも似た問題点を孕んでいます。受験生に忖度や余計な負担を強いるような出題は避けるべきではないかと考えます。具体的に答案に書いてほしいことがあるなら、問題文にそう書くべきです。あと、第2問⑷でも常用対数を使った評価を出していますが、数少ない出題の中でわざわざ対数の問題を二つ問う必要はなかったような気もします。
第2問 演習効果は高いものの、処理量が多すぎる気もする。
微積分・数列・常用対数・不等式評価について典型的かつ基礎的な重要事項がたくさん含まれており、全体を概して言えばとても良い問題だと感じました。多くの受験生に触れてほしいと思える問題ではあるのですが、同志社大学の水準に合わせたこのボリュームだと、多くの子にとっては消化不良に終わってしまう気もしました。受け持っている生徒さんのレベルに応じて、たとえば次の2点を調整すれば適切に改良できるのではないでしょうか。
1⃣ ⑵ で $${\bm{\{ a_n \}}}$$ の一般項までを問うておく: 接することと重解を持つこととの関係、高次方程式の解き方(解のアタリの付け方)、定義ⅱの意味を理解できているかを効率的に問えるという意味では、⑵ はいい設問だと言えます。ただし、⑶において、
積分範囲を確定する上で $${a_n}$$ と $${a_{n + 1}}$$ の大小関係を調べるために $n$ の偶奇による場合分けが必要だと気がつく
最終的に $${S_n}$$ を表す
という二つの重要な過程において、結局一般項 $${a_n}$$ の式が必要になります。これらを一気に一つの小問で問うというのは詰め込み過ぎな気がしました。⑵ の時点で一般項を問うておくことで、誘導の意図(行間・発想)がわかりやすくなるのではないかと思います。
2⃣ ⑷を $${\bm{S_n > 10^{10}}}$$ に変えて出題する: 常用対数を扱う問題では「$${\log_{10}2 = 0.3010}$$ としてよい」という形で近似値を与えることが多いと思いますが、本来 $${\log_{10}2}$$ や $${\log_{10}3}$$ は無理数であり、有限小数では表せないので、この設定は数学的に正しくありません。その意味では、仮定を「$${0.301 < \log_{10}2 < 0.302}$$」と不等式の形で与えているのは誠実でとても良いと思います。ただ、考える不等式を $${S_n > 10^{100}}$$ としたのは、制限時間や他の問題とのバランスを考えると少々やりすぎな気がしました。第1問⑷はここまでたどりつかなかった受験生のことを考えての配置だったのかもしれませんね。解答例にも補足しましたが、仮定する常用対数の評価を小数第2位まで緩めると正確な評価を得ることができません。ところが $${S_n > 10^{10}}$$ とすると小数第2位までで十分になり、計算量的にもちょうどよくなると思います。
ちなみに、僕は最初「⑷で $${a = 2}$$ とするなら最初からそうしておけばいいんじゃないか?」と思いましたが、これはおそらく $${\ell_n}$$ の方程式を導くためには $${a = a_n}$$ とすればいい、ということをイメージしやすくするための優しさなんだろうと思います。
第3問 計算量は多いが、平面ベクトルの基礎が詰まった良問。
個人的には⑴の誘導が面白いと思いました。⑶で内積を計算するとき、⑴の見方ができないと計算の見通しが悪くなってしまいますね。その工夫を踏まえたとしても決して計算量が少ないとは言えませんが「直交している」「同一直線上にある」という典型的なベクトルの処理がちゃんとできるかを素直に問う問題だと思いました。ただ、⑷では「$${\textrm{CD} = 1}$$ のとき $${s, t}$$ の値にかかわらず」の部分をちゃんと説明するのは難しいと思います。最初から $${\textrm{CD} = 1}$$ となるよう $${s, t}$$ の値を与えるとちょうどいい難度になった気もします。
最後に
いきなり初日から飛ばし過ぎたかもしれません。TikZ という、図形を TeX の上で作る機能があるのですが、あまり扱いに慣れておらず、期日中に作成が間に合いませんでした。今週中には何とか完成させて改めて記事を公開したいと思います。
これからも定期的に過去問解説をやろうと思いますが、明日はその上での僕なりの思想みたいなものを書いてみたいと思います。よろしくお願いします。
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