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高尾歳時記 2023年9月9日(土)

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天気:曇り時々雨
気温:23.5℃(高尾山山頂 11:30)
人出:少なめ
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高尾山の山麓には、私のような高尾で育った者や地元に住む人たちにとって大切なお店があります。うかい鳥山です。

現在都心を中心に珠玉のレストランを数多あまた構えるうかいグループですが、その創業の地はこのうかい鳥山なのです。

その重厚な佇まいのお店は、小さい頃は親戚の集まりなど、大事なイベントでなければ連れて行ってもらえない、特別な場所でした。

創業間もないころのうかい鳥山は、野鳥料理の店でした。今はそういうものを喫するひとは少なくなりましたが、野山の山菜や野趣溢れるスズメやウズラなどの香ばしい焼き物の香りは、幼心の記憶として強く残っています。

現在は四季折々、山の恵みを供する料理店としてはるばる遠路から多くの人たちを呼び寄せる、八王子屈指の名店となりました。日本庭園に設えられた美しく広大な敷地に、移築した古民家を離れとして配した季節感と日本情緒あふれる瀟洒な空間は、創業から半世紀以上経った今でも全く変わりません。

高尾山の山麓でうかいが運営するレストランは、うかい鳥山のほかに、懐石料亭のうかい竹亭もあります。高尾山で登山を楽しみ、ふもとの温泉で湯浴みをしてからうかいで食事をするのは、高尾山観光のゴールデンルートです。本日は奥さんも一緒に来てくれたので、久しぶりにこのゴールデンルートを楽しんできました。

本日高尾は台風一過でしたが、終日曇り空でときおりポツポツと弱い雨が落ちてくる空模様。稜線上には低い雲がかかって、遠景はほとんどなし。その代わり気温は25℃を超えることなく、涼しい一日でした。

山の花々は秋を迎えています。今日も花が多いルートを巡ってきました。

立派なヒガンバナが咲いてました。小仏川の河原にて。
雨露に濡れるユウガギクの花。小仏川遊歩道にて。
秋になると、沢沿いなどの湿った涼しいところでよく見かけます。マツカゼソウ。柑橘のような、独特の臭気があります。
イヌタデは里山以外にも、住宅街の空き地などでも咲いていますね。厳しい環境でも強い植物です。
ミゾソバは盛りを迎えつつあります。河原や沢沿いなどの湿った環境で多く見かけます。
ツリフネソウも盛りを迎えつつあります。高尾では、この紫色のツリフネソウを多く見かけますが、黄色いキツリフネも見かけます。ですが、数は非常に少ない。
あっ!ムラサキシキブの実がなっています。
ゲンノショウコは秋の花。北アルプスや南アルプスのお花畑を夏彩る可憐なハクサンフウロの仲間で、花の大きさはこちらの方が小さいのですが、作りは仲間だけによく似ていて大好きな花です。
ツルボの花を見つけました。高尾では比較的多く見かけます。
これは、ミヤマフユイチゴの花。今が花の季節で、11月ぐらいに実をつけます。
ボタンヅルは秋の花。蔓性の植物で、秋になると木に這い登って陽の光を稼ぐ姿が多く見られます。
イヌトウバナも秋の花。沢沿いの涼しい湿った環境でよく見かけます。
ヤブマメは夏の花。名残の一輪。
高尾に秋を告げる花のひとつ、ヤマホトトギス。オバケのQ太郎みたいで、かわいい花です。
高尾山山頂に到着。今日は遠景は望めませんでした。
さてさて、下山していつものTakao Mountain Houseに寄って、クラフトビールで乾杯!
そして、京王高尾山温泉極楽湯で湯浴みして、さっぱり!
いよいようかい鳥山で宴の始まりです。門前の「とりよろし」の提灯は、子供の頃から変わりません。
中居さんが食事処まで案内してくれます。
風情ある中庭をそぞろ歩きます。
鯉が放たれた池。この建物は池に面した縁側があって雰囲気がいいですね。ここで宴会したら楽しそう。
本日の食事処までもう少し。
離れの二階にあがります。
階段から折り返して部屋の方へ。
さあこの襖を開けると本日の食事処です。
いいですね!素晴らしい。もういい予感しかしません。
丹念に手入れされた庭と、移築された古民家が織りなす風情。遠景には高尾山を取り巻くふもとの稜線を借景にした景色。敷地内には、中沢川のせせらぎが流れます。
まずは乾杯!楽しみです。
突き出しは黒胡麻の胡麻豆腐。上に乗るのは新鮮なウニと本ワサビ。よくある豆腐にゴマの風味をつけただけのニセモノではなく、本葛粉を何時間もひたすら人の手により鍋で練り上げる、ホンモノの胡麻豆腐です。そもそも、胡麻豆腐は豆腐という呼び名がついているだけで、大豆から作る豆腐とは全くの別物です。これに雑味の全くない新鮮で甘いウニを添えるという組み合わせが秀逸。
ワサビほどホンモノを味わう機会がない薬味もないのではないでしょうか。ホンモノのワサビは、その峻烈な風味がちまたのものと全然違います。鼻腔を刺激する辛味は涙が出るほど激烈ですが、それは一瞬のこと。刹那にすっと跡形もなく消え、あとは新緑の季節の春風しゅんぷうのような爽やかな風味がいつまでもあとを引きます。うかいで供されるワサビは、もちろんホンモノです。
身欠ニシンとナスの揚げ浸し。身欠ニシンの炊きものは大好物で自分でも作りますが、乾物の状態から戻すときに出る芳醇な出汁をベースに整えた濃厚な冷たい出し汁をはって、それに油との相性抜群な旬の夏野菜であるナスを揚げ浸しにし、ガラスの器に盛って刻んだミョウガを添えた目にも涼しい一品。
次はお椀。童心を呼び起こす、かわいい素敵な塗り物で出てきました。
これには意表をつかれました。柔らか鶏肉の椀汁。うかい自慢の、契約農場で育てられるうかい鷄のガラから取ったコラーゲンたっぷりの濃厚なスープを惜しげもなく使った出汁の中には、柔らかく炊いたうかい鶏の切り身。椀の中にはそのスープをたっぷりと含んだ旬の冬瓜と、食感のアクセントとなる、大きくて風味豊かな、立派なキクラゲがしのばされています。
このスープ、冷めたら煮凝りのように固まってしまうのではないでしょうか。そのぐらい、たっぷりのコラーゲンがとろみとなって、濃厚な味わい。あと、鶏肉は本当に火の入れ方が難しい肉で、焼けば焼くほど、煮れば煮るほど硬くなってしまいます。自分でもやりますが、これだけ滋味たっぷりにホロホロと柔らかく仕上げるには、何十分もかけてぎりぎりの低温調理をしないといけません。スープも含めて、素晴らしい技術です。美味しい!
やった!大好きな鯉の洗い。川魚の優れた養殖技術で知られる、長野県佐久産の鯉です。
でも、色々刺身になりそうな魚があるなかで、なぜわざわざ鯉の洗いなのか。それは、とっても美味しいからです!
こんなわがままを言っていいのか、というぐらいの、脂がのった、アミノ酸の旨みをたっぷりと感じる味わい深いお刺身。薄造りにしたものを冷水でキュッと締めて、醤油ないしは酢味噌で食します。これに、赤唐辛子の柚子胡椒を添えるとうっとりするほどの蠱惑的な風味が加わって、その残り香をキリッとした辛口の冷たいシャンパンで流し込む贅沢は味わった人でないとわかりません。
鮎の塩焼き。蓼酢を添えて。鮎ほど、喫するひとそれぞれに一家言ある魚もないと思います。山を愛するワタクシは、果報なことに、生涯記憶に残るであろう鮎料理を頂く機会にあちこちで恵まれました。でもそれらは、その時々の、偶然の自然の恵みの瞬間に立ち会えないと預かることができないもの。商業ベースでは成立しないものです。
日常で、そんな贅沢を望むことなどできません。ですが、人間はその知恵と情熱で様々なものを実現してきました。この鮎はおそらく養殖だと思いますが、気性の荒い天然鮎を彷彿とさせる猛々しいその細面ほそおもて、香魚の別名そのままの、蓼酢との相性が抜群の、天然鮎が主食とするこけの豊かな芳香漂う、これがなければ全ての価値を減ずると言っても過言ではないワタの風味はもちろんのこと、初秋の恵みである子持ち鮎を飾り塩でその姿美しく柔らかく焼き上げた焼き手の技量も抜群な素晴らしい逸品です。これが美味しくない人はいないでしょう。
いよいよメインの焼き物。炭と焼き網が運ばれてきました。
牛と鶏は、うかい特選牛とうかい自慢の契約農場で育てられたうかい鷄。牛は別料金でサーロインに変更することもできますが、今日はコース通り、風味と滋味豊かなランプ肉にします。
まずはランプ肉から。
そして、鶏を投入。牛は、中居さんが焼き加減の好みを聞きながら焼いてくれます。
いい感じに仕上がってきました。
ランプ肉から食します。野生的な肉々しい食感ながらも、滋味豊かでタップリの肉汁が噛むたびに溢れ出ます。こういう赤みの肉が好みということもありますが、美味しく頂きました。
鶏は焼き加減が難しい。以前は説明を受けて自分で焼く方式だったのですが、コロナ禍後、中居さんが焼いてくれる方式に変更になったみたいです。このほうが断然いいですね!
タレに二度漬けして、皮目をぱりっと香ばしく、そしてふっくら柔らかく肉汁をジューシーに閉じ込めた焼き上がり。先述の通り、鶏を柔らかく焼くのはとにかく難しい。
肉厚の椎茸は、森の生き物の生命力をまとった格調高い香ばしさと肉感たっぷりのぷりぷりした歯応え。こちらも噛み締めるほどに、椎茸の濃厚な出汁があふれでてきます。
ご飯と留椀。さてさて、なんでしょう。
今年お初の松茸です。贅沢にご飯と蒸籠蒸しにした、松茸ご飯。赤だしと香のもの。季節の走りの美味を頂きました。
香の物の沢庵は、黄色何号とかいうまがいもので色付けされたものではなく、昔ながらの自然な漬け込みでほんのりと色付いた、ホンモノの沢庵です。それに、食事後によく合う浅漬けにした爽やかなきゅうりの糠漬けとはじかみ。紅黄青と揃えてくれました。こういうのが大事ですね。
甘味かんみはぜんざいですが、餡子の下に隠されているのは旬のかぼちゃを炊いた餡。同じくかぼちゃを練り込んだ白玉を添えて。
焙じ茶がよく合います。よく甘味かんみを食べて「甘くな〜い」なんぞとのたもうかたをお見かけしますが、悲しいですね。全然褒め言葉ではありません。やっぱり甘味かんみは甘くないといけません!
「素材が持つ風味を損なうことなく最大限に活かして季節感をかもしつつ、甘いものを食すワクワク感と喜びも味わえる、バランスが絶妙な甘味かんみですね」と、ちゃんと言ってください。
ご馳走様でした。窓からみえる、サルスベリの桃色のお花が綺麗でした。
確実に座れる、京王ライナーMt.Takao号で帰路につきます。今日も楽しかった!

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