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ざっくり分かる「ビジネスと人権」

こんにちは。ぷらいむ です。

私は事業会社の人権担当として、社内の啓発やハラスメント対応、人権方針の策定に関わってきました。

2022年9月13日に経産省から「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」の策定に関するニュースリリースが出ましたので、今回の note では「ビジネスと人権」について書いてみたいと思います。


日本の人権と「ビジネスと人権」の違い

「ビジネスと人権」は、日本の人権に対する考え方と違う部分があります。
まず、前提の違いを押さえておくと理解しやすくなると思います。

日本の人権とは

日本の人権は、個人や特定の属性に対して差別や偏見、誹謗中傷をやめよう、人権意識を高めようといった考え方が中心となっています。

管轄は法務省で、人権擁護局から「啓発活動重点目標」や「啓発活動協調事項」などが出されています。

ビジネスと人権とは

これに対してビジネスと人権は、事業活動によって生じる人権侵害を防止しようという考え方です。

国連のイニシアチブが起点となり国や企業に対して行動を求められていることから外務省や経産省が管轄になっています。

ビジネスと人権には発想の転換が必要で、例えば、

  • 公害は、日本だと環境問題と考えられるが、ビジネスと人権では環境汚染によって地域住民の健康侵害や住めなくなる人権侵害

  • 個人情報関係は、日本だと秘密情報管理と考えられるが、ビジネスと人権では個人情報の流出によるプライバシーの侵害という人権侵害

といった感じになります。
(個人的には、日本は取り組みを全くしていないのではなく、違う視点で取り組みをしているのでは?と思っています。)

ビジネスと人権の背景

なぜ、このような潮流が出てきたのか?

ビジネスと人権を考えるきっかけとなった事例があります。
それは、ナイジェリアのニジェール川デルタ地帯で石油を採掘するにあたり長年に渡って地域環境汚染をしていたもの。

ナイジェリアはアフリカ最大の原油産地があり、歳入の70~80%を石油に頼っていました。
世界各国の石油企業がナイジェリアに集まり、生産活動に伴う事故が多発。
1975年から2001年までに生じた原油流出事故は6,800回以上にものぼりました。

この石油採掘に伴う事故は地域の土壌、水、大気などの環境を汚染し、農業や漁業で生計をたてていた住民に生活面や健康面で負の影響を及ぼしたとして、企業に対して人権侵害の責任が問われました。

人権が企業活動に焦点が当たっていく

それ以外にも世界的なスポーツ用品メーカーが安い人件費を求めて劣悪な労働条件で事業活動を行うなど、グローバルに事業活動を展開する企業に対して、人権侵害が問題視されるようになっていきます。

それまで、人権に関するルールついては、世界人権宣言(1948年)、国際人権規約(1966年)、ILO中核的労働基準(1977年)などがありましたが、それは国家に対してのもの。
新たに、企業活動に焦点をあてるルールづくりが求められる声が挙がってきました。

ラギーフレームワークという考え方の登場

しかし、企業に対して制限をかけるルールづくりは、企業側と労働者側で対立してしまう事があり、一筋縄ではいかないものでした。

そのような軋轢が生じる中、2005年に国連の第69回人権委員会で「人権と多国籍企業」に関する国連事務総長特別代表として、ハーバード大学ケネディスクールのジョン・ラギー教授を任命し、ビジネスにおける人権の「保護、尊重及び救済の枠組み」をとりまとめます。

ここでは、多国籍企業と人権の関係を

  • 人権を守る国家の義務

  • 人権を尊重する企業の責任

  • 救済措置へのアクセス

の3つの柱に分類し、各主体の義務や責任について提唱しています。

ビジネスと人権に関する指導原則の策定

ラギー・フレームワークは「枠組みを支持せよ」というもの。
各主体の実行を強制するものではありませんでした。

しかし、このラギー・フレームワークの考え方は2008年第8回人権理事会の決議で歓迎(welcome)されたため、「枠組み」から「具体的かつ実際的な勧告」として「ビジネスと人権に関する指導原則」を策定に進んでいきます。

そして、2011年の第17回人権理事会の決議で「ビジネスと人権に関する指導原則」は支持(endorse)されました。

指導原則の構成は以下のとおり。

  • 原則1~10:保護(国家が対象)
    実効的な政策、法規制及び裁定を通して、企業を含む第三者による人権侵害から保護する義務

  • 原則11~24:尊重(企業が対象)
    人権侵害を回避し、関与する人権への負の影響に対処することを通して、人権を尊重する責任

  • 原則25~31:救済(国家および企業が対象)
    人権侵害を受けた人々に対する実効的な救済措置をとる義務

企業に対して特に影響がある部分は「尊重」の部分です。

  • 基本方針によるコミットメント【原則16】

  • 人権デューディリジェンス【原則17~21】

  • 是正措置【原則22】

ここで、人権デューディリジェンスという考え方が出てきました。

人権デューディリジェンスとは?

人権デューディリジェンスは、自社だけでなく取引先などのステークホルダーまで含めて事業活動で生じる人権への負の影響を洗い出し、対処する継続的なマネジメントサイクルです。

そのサイクルは次のとおり。

  1. 人権への負の影響の特定、分析、評価

  2. 適切な対処のための行動

  3. 継続的追跡評価

  4. (ステークホルダーへの)情報提供

実務的に難しさがあると感じるのが、一番はじめの「人権への負の影響の特定、分析、評価」です。

サプライチェーン上の負の影響なので、理論上では原材料がどのように作られているのかまでチェックが求められています。

しかし、取引先が多重構造になるほど、3次、4次…と追いかけていくのは難しい。
人事だけで進めるのは難しいので、CSRや調達のチームや担当者がいるのであれば連携して動いていくと良いです。

さいごに

ビジネスと人権は、大企業の話だけではなく、海外と取引をしている中小企業に対しても影響のある話になります。
もし、取引先から「CSR調達調査(アンケート)」というような調査票をもらったら、それは人権デューディリジェンスへの対応になります。

事業活動で関わるステークホルダーを把握し、人権の視点で課題があるか洗い出しをする。
その結果から、影響の大きいものから優先付けをして改善していく。

いざという時に慌てないように、少しずつでも情報収集して対応できるようにしておきたいところです。

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