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生きる行脚

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大学3年生(2021年度)を1年間休学して、日本各地の漁師さん・農家さんのところで修行させてもらう旅、「生きる行脚」をしたときの記録。 これを読んでくれた人の心に火が点きますよう…
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記事一覧

なぜ僕は大学3年生を1年間休学して、日本各地の農家さんや漁師さんのところで修行させてもらう旅に出たのか。|生きる行脚#0@田辺大貴

※ここでは休学する「前」に自分が思っていたこととか、当時の感情をできるかぎり思い出して書きました。「あのときとは変わったなぁ」って自分でも思うこともあれば、「前も今もそんなに変わってないな」って思うこともあります。あくまでも「当時の」僕が思っていたこととして捉え、温かい目で読んでいただけたらと思います。 大学入学と、「逆」学歴コンプレックス。  いきなりだけど、大学入学した当初、僕には学歴コンプレックスがあった。「学歴コンプレックス」っていうのは、 ってことだ。だけど、僕

生きるを感じる、漁村インターンシップ。|生きる行脚#1@三重

 休学を決めて1週間、一次産業の世界へ飛び込むと言ってはみたものの、その入口を探していた。  2月18日、朝。寝起きにボケーっとしながら眺めていた高橋博之さんの「歩くラジオ」、ゲストに秋田県最年少船長の佐藤栄治郎さんを迎えた中、高橋さんの中継先である三重から顔を出していたのが、今回お世話になった有限会社 友榮水産の橋本 純さんであった。  鯛と一緒に泳ぎたい!「命をいただく」感覚を体験したい! と思った。 また、ポケットマルシェのアプリの自己紹介には、 と書かれていて、

一緒くたにしない。|生きる行脚#2@秋田

 2月18日、高橋博之さんの「歩くラジオ」。ゲストはえっこさんこと秋田県最年少船長の底引き網漁師、佐藤栄治郎さんだった。  2人の対談の中での高橋さんの「秋田県の底引き網は1ヵ月のうち26日、漁に出れない。仕事に行きたくても行けない。」という一言に驚いた。「1ヵ月のうち26日漁に出れない…? 底引き網ってどんな漁業なの…?全然想像できない…。」と思うと同時に、生活はどうなっているのか気になった。 そこで、ポケマルのメッセージ機能を使って船に乗せてください、とお願いしてみると、

延縄漁師とその家族から学ぶ、「考えて」生きる。|生きる行脚#3@山形

偶然  「これから2週間、一緒に船に乗せてください。お願いします。」 玄関で奥さんの末子さんを見るなり発した第一声がこれだった。自己紹介もせずに唐突にこんなことを言ってしまった。あの時はほんとに必死だった。 末子さんはあんぐりと口を開け、ぽかんとした表情で首をかしげるとその場で一瞬、固まってしまった。  本来であれば1ヵ月や2週間前から連絡を取って行く先を決めるのだけれど、今回は自分の至らない点もあり、秋田に来て2週間が経っても行く先が決まらないでいた。なす術もなく「どう

魚。生き物をいただいて命をつなぐ。|生きる行脚#4@青森

 ポケットマルシェのアプリを開き、画面右上の水色の (検索) マークをタップする。カテゴリを「魚介類」、生産地を「東北」に設定する。それから「生産者一覧」をタップすると、東北の漁師さんたちが出てくる。場所と生産物を見ながら画面を上から下へとスクロールしていく。  「マグロ」の文字が目に留まった。生産者さんの名前は、野呂英樹さん。自己紹介を見てみると、青森県の深浦町というところで大型定置網という漁法でマグロを獲ったり、サーモンの養殖をされている、ということが分かった。  絶大

ホタテ養殖のインターンから「生き物」を感じ、生きることを考える。|生きる行脚#5@岩手

 「三陸でやってるホタテの養殖は面白そう。」という話を風の便りに聞いて(たぶん秋田の漁師さんが言ってたような気がする…。)、「ホタテかぁ。魚とはまた違った、じっとしてる海の生き物も見てみたいかも。」と思いやって来た、岩手県大船渡市三陸町越喜来。 ホタテの耳吊  僕が行かせていただいたときはちょうど1年の中でもトップクラスに忙しい、「耳吊」という作業を行う繁忙期と重なっていた。  耳吊を簡単に説明すると、稚貝(貝の赤ちゃん)の状態から1年ほどカゴに入れて育てたホタテをカゴから

「ふりだしに戻る」|生きる行脚#6@宮城

キ跡と意気込み  6月11日、この日がやってきた。岩手での修行を終え、新天地を求めて宮城へと旅立つ日だ。だけど、具体的な行き先は決まっていなかった。ポケットマルシェのアプリを使い、2週間以上前から数人の漁師さんに船に乗せていただけるようお願いをしていたがなかなか良い返事をいただけなかったり、返信自体をいただけずに時間だけが過ぎていった。そしてついに、行く先が決まらないまま岩手での修行を終えた。  ポケマルを使ってもうまくいかない、Twitterを使ってもうまくいかない、とい

見えているのは、ほんの一部。|生きる行脚#7@福島

 ここまで福島以外の東北5県に行っていたから、福島の農家さんのところにも行ってみたいな、なんて思いつつポケットマルシェのアプリを開き検索機能でカテゴリーを「米・穀類」、地域を「東北」に設定して検索してみる。  場所を見ながら画面をスクロールしていくと、地元「福島県福島市」の文字。株式会社カトウファームの加藤 絵美さん、という農家さんだった。商品ページを見てみるとお米の他にクラフトビールを作っているらしい、ということが分かり「福島市にお米とビールを作ってる農家さんなんているんだ

行き過ぎた資本主義を感じて、もやもやした話。|生きる行脚#8@日本社会

(※あくまで1つの農場での話で、個人的に感じたり思ったりしたことを綴っているということを心に留めたうえで読んでいただければと思います。)  「大規模」や「機械化」、「最新鋭」といった言葉には、あまり魅力を感じたことがなかった。だけど、自分が好きそうなものばかり見てるとそれしか見えなくなってしまうというか、自分の見る世界が広がらないような気がして、あまり好感を抱いたことはなかったものの、あえて大規模酪農をされている農場さんに実習のお願いをした。  積極的な意味で興味があって行

体の「生きる」と、頭の「生きる」|生きる行脚#9@佐賀

 9月いっぱいで緊急事態宣言が解除されてからどこにも行けず、何もしないまま実家で過ごした。 2週間、畜産農家さんをあたり続けていたもののいい返事がもらえず、行き先が決まらなかった。  このままだと、行き先が決まらないことを盾に家から一歩も出なくなるような気がして、怖くなった。 そこで直感的に 「受け身のまま何かが起きるのを待っててもたぶん何も起きない。今の状況に満足してないんだから、思い切って自分から何かをしてみなくちゃいけない。」 と思った。  だから、行き先が決まらない

消費者が「任せている」食べものの世界。だからきっと、消費者には心がない。|生きる行脚#10@消費者

 豚肉はおいしいし、安いから、僕は結構な頻度で食べる。きっと、多くの人の食卓にも頻繁に登場し、みんなが何気なく口にしている、僕たちの食生活からは切り離すことのできない食材だと思う。  そんな親しみのある食材なのに、豚という「生き物」が豚肉という「食べ物」になるまでの過程を多くの人たちは知らない。屠畜(家畜を食肉・皮革などにするため殺すこと。)は、進んで見たくなるようなものではないから、消費する側はその過程から目を背け、江戸時代の身分制度が存在していた頃から特定の人たちによっ

養鶏家、松本 啓さん。|生きる行脚#11@佐賀

 11月半ば、大規模な肉用牛や養豚の現場に行ってみたいと思い短い期間で色々な会社さんにアプローチしてみていたけれど、ことごとくいい返事をもらえず、行き先に困っていた。  そんなとき、以前お世話になったほんま農園の本間さんに紹介していただいた松本 啓(さとし)さんという養鶏家さんが頭に浮かんだ。本間さんからは「伊万里に新卒で養鶏を始めたすごい人がいるんだよ。」と聞いていて、啓さんと直接会ったことはなかったものの、SNSを通じてつながらせてもらっていた。  そこで、「大学を卒業

「努力は当然。報われないのも当然。」な肥育の世界に生きる、命輝かす牛飼い|生きる行脚#12@福岡

 「生き物を育てる畜産の世界ってどんな感じなんだろう?」と漠然と思い、ポケットマルシェのアプリの検索機能で「カテゴリーからさがす」を「肉」に設定して畜産農家さんを検索してみた。  江口 幸司さん(今回お世話になった江口 豊作さんのお兄さんで、豊作ファームでは販売事業を担当されている。)という方の商品が画面の一番上に表示されていたので、何気なく生産者ページに飛んでみた。 自己紹介を見てみると、田んぼから出た稲わらを飼料として牛に与え、牛の糞を堆肥として田んぼに還元する「循環

生きてるのは当たり前なのか。|生きる行脚#13@豚の世界

(※あくまで自分が行かせていただいたところでのお話で、様々な形・やり方がある中の一つとして読んでいただけたらと思います。)  牛乳や卵、お肉の生産現場へ足を運び牛や鶏を見ていると、「豚はどうなんだろう、どうやって育てられているんだろう。」とか「豚肉はどうやって作られているんだろう。」となんとなく思うようになり、興味が湧いた。そこで、日本の養豚においては一般的とされるようなやり方で豚を育てている養豚場さんで研修させていただいた。 すぐ側で「死」が待ち構える豚の世界  単刀直