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短い物語P&D『魔法を使うということ』

代々続いている。
そういう血筋だから仕方がない。
最近はそう思えるようになった。
今は受け入れているということ。
戦いを繰り返すような修行は必要ないけれど、呪文はしっかり暗記して、間違いなく唱えられるように努力している。
実は発音が難しい。
その上、魔法を使えば体力を消耗するから
体を鍛えておく必要もある。
簡単な魔法でも、使った後は50メートルを全力で走ったような状態。
簡単に回復することはないし、足早に筋肉痛みたいな感覚が全身に行き渡る。
急な発汗もあって、その後には当然、喉が渇く。
稀なんだけど、頭痛が一番キツい。
精神も鍛えなくちゃいけないけれど、今のところ僕は大丈夫。
満たされない仕事で疲弊する日々とはいえ、鍛えられている感じがしている。
それでもある日、白髪を見つけてしまうんだ。
内なる闇に向かって愚痴を溢したくなるけれど、貧乏暇無し。
だから回復の為のサプリだけは、いくつか市販品から見つけてある。
コンビニでも手に入るから、今日はその買い物へ。

コンビニへの道程に冒険は無い。
ゲームの世界のように便利なアイテムは都合よく落ちてはいない。
希少で強力な物は高額で取り引きされているから手に入れるのは難しい。
たとえ持っていても、勿体なくて僕は使うことはないだろう。
とにかく僕は真っ直ぐ前を向いて歩き、争いごとは避けたかった。
通い慣れたコンビニだったから難なくたどり着いた。
いつも通り、いつもの導線へ踏み込む。
一年中色褪せない雑誌コーナーを横目に、僕の中で数値に表せない何かが高まる。
現代の万屋には僕が求めている物はほとんど揃っているから。
けれど、今日は違った。

レジがある方から男の声が聞こえてくる。
おそらくレジで何かが起きている。
大きな声が店内の風雲の流れを変えた。
どうやら成人承認のためのOKにタッチしようとしないお客の攻撃ターン。
攻守交替されずに両替の強要。
こんな現場は世に遍く。
見渡せば、客は僕を含めて二人だけ。
可愛らしい女性スタッフを救う勇者はバックヤードから現れない。
魔のワンオペ時間帯か。
ふと思い出したのは、先週の出来事。
順番待たずに割り込む輩を操って、最後尾に並ばせた。
ゲームの世界で遭遇するのは、ほとんどがスルーできない事件。
僕はゲームの中では躊躇なく魔法を使うけれど、現実は、ね。

僕に役割があるとしても、今はまだ分からない。
政財界の魔王や怪物を倒すことではない。
誰かが言っていた。
50歳になれば人生の意味が分かるって。
魔法を使えるということは、どういうことなんだろう。
歌って発動できる魔法があれば習得したい。
そんなことを考えながら僕はレジに近づいていく。

さて、今回はどうやって解決したらいいだろうか。
僕は僕なりのやり方で社会貢献するだけだ。 
〜終わり

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