定額給付金で新しい家族を買う
なるほど、犬とか猫とか小鳥とか
ペットを飼うというのもありかもね
そう思ったところ申し訳ないが、私が買ったのは猫は猫でも「鶴のポーズをする猫」という作品名がついた猫型のソフビである
いや、少しはためになることも言うから頑張って付いてきて欲しい
田島享央己作「鶴のポーズをする猫」
捕獲場所は札幌の大丸百貨店8Fにある美術サロン
掌展 TANAGOKORO-TEN
という立体造形物の作家数名による企画展に出品されていた作品の一つである
彫刻家 田島享央己氏の作風が大好きなので出来ることなら一点物の彫刻が欲しいのだが近年大人気で価格が暴騰、展示会があればいそいそと行くのだけれど最近では指をくわえて見てることさえ難しい価格になってきている
好きな作家の評価が上がるのは嬉しい反面どんどん手に入らなくなると言う哀しみが伴うものだ
そんな田島享央己氏の作品が札幌で初めて展示されるというので早速初日に私の影響で作品が気になってたらしい友人二人と一緒に大丸へ向かった
大丸百貨店といえば札幌でも三越と並ぶ代表的なデパートだが、かなりこじんまりとした美術サロンはレストランフロアの奥の片隅にあり、この日までそこにあることさえ知らなかった
札幌ほど暮らしやすいところはないと思って東京から移住してきたがこんな時、文化芸術に関することだけは地方都市のハンデを感じずにはいられない
その小さな美術サロンに着くと数名の作家による企画展なので様々な作品が並んでいたが、もう一瞬にしてすっかり見慣れたオーラを醸している作品達に目が留まる
相変わらず独特の魅力を放つ木彫の作品たちはバブル期の株価の如く展示会毎に上昇しもはや溜め息しか出ない価格がついていた
一点物の木彫(身を滅ぼしそうな価格
ところがふと横に目をやると今回はそれらの一級芸術品と共に私のような者でもうっかり買えてしまいそうな、木彫の原型を精巧に型取りして着色した等身大の猫型のソフビ作品(生産限定品)が並べられていたのである
「うわぁ」
見た瞬間にこれはマズイと感じ、声にならない声が出た
買えてしまうではないか
隣に居並ぶ樟の良い香りがする一点ものの木彫とは価格が2ケタも違うので、ソフビとしては十分にお高いのだが錯覚で大変お買い得に見えてしまうのだ
ギャラリーの方に勧められるまま手に取ると何とも丁度いい重みと質感は、鑿の跡どころか精密な木肌まで完璧に型取りされていて、一見すると木彫にしか見えないおったまげるクオリティーだったのである
なんという力強さ
これが原型の木彫
こんな優しい色合いながらほんのりとした狂気をたたえ、なおかつ可愛い招き猫を私は他に知らない
そう、「鶴のポーズをする猫」と聞いてウッカリするが、これは招き猫
両手どころか足でも掻き集める最強の招き猫らしいのだ
実にマズイ
洋服だって見てるだけなら買わずに済むものを、試着してしまったら大抵買ってしまうだろう(私は買うよ
捨て猫なら撫でたら終わりで連れて帰るしかない、それと同じだ
彫刻も(これはソフビだけど)見てるだけなら買わずに済むが手にとったらもうダメだ
が、このような手の届くものがあるとは想定していなかったので動揺し、一旦落ち着こうとサロンを後にしてみんなでランチをしていた時のこと
友人から特別定額給付金の話が出た
今全国で庶民の話題ランキングトップ3に間違いなく入ってるであろう「もう支給された?」的なやつである
そういえば私も申し込んでから結構日が経っており、2回くらい確認したけどまだ支給されてなかったので数日ぶりにその場でスマホで口座を確認したら
!!
そうきたか。
まさに、今日振り込まれていたのである
期は熟した(早い、早すぎる!
何とも言い難いムズムズした気持ちになったが
友人たちにはこの時もう私は絶対買うだろうと見ていたようだ
私も口では「ソフビだし、、」と否定していたがどうせ買うだろうとわかっていた
2日後、買わない理由がどこを探してもないので再び大丸百貨店へ向かった
残り3匹(既に3匹売れていた)
同じ型取りされた猫とはいえ、着色は個体差がある
特に目の色は水色と濃いブルーの2色があり結構印象が違うのだがどちらも良い、とても良い♡
こうなるともう本当に何匹か同時に生まれた猫の中から一匹選ぶのと同じ感覚である
美術サロンのソファーに座り、テーブルに3匹を並べて顔を見比べ悩みに悩んだ末、ついにロイヤルブルーの目をした真ん中の一匹を手に取った
「よし、この子にしよう」
猫型ということもあり、もう完全にペット(家族)を迎える感覚だ
もう一度言うがこれはソフビである
一般的には猫型のソフビなんて、なくても全く困らない、むしろ邪魔かもしれない不要不急の代名詞であるのだが箱を抱えて帰る私の胸は躍っていた
嬉しくてそのまま特別な日にしか食べないタラバガニとフルーツのサンドイッチを食べに行ったくらいだ
タラバガニがむっちり詰まったご馳走サンドイッチ♡
向かいの席には大丸から連れ帰った猫がケージ(ダンボール)に入って鎮座している
ひとはなくていいものにトキメク
私が彼の作品がとても好きな理由の一つに、作品に添えられた数々の言い得て妙な言葉があるのだが、中でもこれだけは紹介しておきたい
なくていいものはあったほうがいい 田島享央己
この禅問答のような言葉は今や世界規模で支持されてる断捨離とは対極にあるように見えて真理であり、道楽者を自称する私には腕に油性マジックで刻みたいほどの名言である
本当にトキメクものだけをそばに置こうという意味では断捨離と同じだと理解している
ガンプラしかり、ひとはなくていいものにトキメき自らのパフォーマンスを上げる糧とするのだ
特別定額給付金を受け取る思いは人それぞれだし、使い道も千差万別であるだろう
家賃や生活費、税金などのひとつもトキメクことのない必要不可欠なものに瞬時に消えざるを得ない方も多いし
実際本当は私も支給額とほぼ同額の固定資産税として一瞬で消え、最短の食物連鎖のような虚しさを感じてたりもしているのだが
固定資産税は給付金がなくてもどうせ払うものだったので、今回はこの特別な給付金で特別な猫のソフビを買ったことにした
一人暮らしで定期的に出張もあり、ペットを飼いたくても現実的にままならない私にとってこの丁度いい大きさの猫のソフビは雨の日に電柱の下に置かれた子猫を見つけてしまったようなもの
精巧に再現された鑿の跡や今にもシャーッ!!と鳴きそうな豊かな表情を見ているだけで心が豊かになり癒される
また私自身もクラフト作家の端くれであり、不要不急だけれども心に潤いをもたらすものづくり=道楽を生業としながら生きることを志しているので、まさにこの芸術家の魂を映し出す猫はソフビとはいえ、私にとってはもの作りを見守ってくれる守り神に等しい(だとしたら安いものである)
お金は何に使う場合でも「払って無くなってしまった」ではなく
欲しいものを買った場合はもちろん、払うのが苦しい家賃や税金を払った時でも「それを無事に払えて良かった」と感謝できるかどうかで運気の流れが変わる
世の中の大いなる循環の流れにお金を差し出して乗せることでエネルギーとなり、回り回ってやがて思いがけない形で自分に返ってくる
これは給与所得者には理解されにくいのだが、脱サラしてから心の仕組みとともにお金についても人体実験をしながら学んで体得してきたことなので間違いない
だから給付金を受け取った方は出来ることなら普段ならちょっと手が出ないような憧れの、テンションが上がるものを思い切って買って欲しいし、前から飼いたかったペットを飼うなんて最高だ
一方家賃や税金に追われててそこに充当する方も「無事に払えて良かった」と心から思って欲しい
銀行への貯金も広い意味ではお金が回るけれど、個人の豊かさの感覚を磨けないので出来れば運気を上げる意味でも意図的に使うことを強く薦める
そしてタンス預金だけは何も生み出さないどころかお金が腐るのでやめて欲しい
国民全員が「払えて良かった」と心から感謝しながら何かしらに10万円使えたらこの国の景気は必ずや回復の一歩を踏み出すはずであろう
新しい家族として家に連れ帰った猫のソフビを箱から出したら、図らずもまさに捨て猫を拾ったような瞬間が再現されてしまった
新入りは先輩家族にもご挨拶をした
(先輩のことは今は聞かないで欲しい)
憧れの猫がいる生活が始まった
これから仲良くしようね
伏せると鑿の跡が雪平鍋にしか見えないところも可愛い
因みに、私の本命はこれである
田島享央己作 饅頭を二つに割る騎馬像
販売価格を聞いて椅子から転げ落ちそうになった
これを家に迎えるには金塊を用意しなければならず、今の私では二つに割った饅頭の片方も買えそうにない
芸術作品には夢がある
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