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姫路城 by Mr.ホワイト(2014.12.27)

姫路城の改修が大河ドラマにギリギリ間に合ったと聞いて、
一昨年の冬、仕事で姫路に行ったときのことを思い出した。

大阪から姫路までは、普通電車日本最速のJR神戸線新快速でちょうど1時間。
これが東京なら普通の距離だが、大阪の人間からするとちょっとした旅行である。
そういえば、駅に着くと「軍師官兵衛 大河ドラマ決定!」のポスターがいたるところに貼られていた。

2日間みっちり作業して、そろそろ仕事も終わりかけてきたその日の夕方、
事務職員の若い女性に案内してもらい、社内を見て回っていたところ、
「ちょっと寄り道していいですか?」と提案されたので、どうぞと言った。
「私のとっておきの場所があるんです」
その口ぶりに、私は若さ特有のエネルギーを感じずにはいられなかった。

彼女に連れられて階段を上った。カツン、カツン。話題、話題。
「ご出身はやはりこのあたりなんですか?」
「ええ、ずっと姫路ですよ。住んでるのは中心部じゃないですけど」
「僕の同僚にも姫路出身の人、多いんですよ」
「そう、みんな大阪に出ちゃうんですよねー」

彼女のとっておきの場所は、ビルの10階あたりにあった。
廊下の一角に狭いスペースがあり、なぜか全面窓となっている。
窓のむこうでは、夕暮れ時の姫路の町が動いていた。
夕陽はオレンジに輝き、小高い山は陰をつくる。
陽を反射するビルの下では、信号が点滅し、車が走り、人が歩く。
見晴らしはいいが、いわば、どこにでもある地方都市の夕暮れ。

「良い景色でしょう?」
彼女は自信に満ちていて、私はギョッとした。そしてその姿が何よりもまぶしく見えた。
そう、私が間違っていた。この景色は単なる町の景色ではないのだ。
この景色には彼女の人生のかけらがあたり一面転がっているのだろう。
小さい頃、あの山に登ったことがあるのかもしれない。
母親に連れられて、あの百貨店に行ったのかもしれない。
高校生の頃、あの電車を使っていたのかもしれない。
友だちと一緒に、あのカフェで紅茶を飲んでいたのかもしれない。
ここは彼女の町なのだ。

「良い景色ですね、確かに・・」
私には自分の町はない。少なくとも誇るような故郷はない。
誇らしげにニコニコする彼女を見て、私は良いものを見たと思った。

その日の帰りに姫路城に寄ることにした。
姫路城は天守閣が張りぼてで囲われていた。真っ暗だった。
私は太宰治の「津軽」の言葉を思い出していた。

「思へば、おのれの肉親を語る事が至難な業であると同様に、故郷の核心を語る事も容易に出来る業ではない。ほめていいのか、けなしていいのか、わからない。」

姫路城をあとにし、大通りを通って姫路駅へ向かった。良い町だと思った。

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