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お産ができない私の街の話
「お産難民」という言葉をご存知ですか?
今日は私と私の住む故郷に起きた出来事についての話です。
お産難民は身の回りに赤ちゃんを産む施設がない妊婦のこと。
私の住むふるさとの街はこの春、赤ちゃんを取り上げていた唯一の産科医院が分娩をやめることになり、隣り合う2つの町を含む地域一帯から分娩可能施設が無くなりました。
よほど小さな街かと言うと、そうでもありません。2つの市と2つの町、そして私の暮らしていた1つの村が合併してできた比較的大きな市です。
人口減少の影響は少なからず受けながらも、現在も11万人以上が暮らしていて、毎年900人近い赤ちゃんが産まれています。
近年、地方の周産期医療の現場が確実に減っていること、分娩可能施設がゼロになる地域があることは、私自身も以前からよく理解していました。
問題意識も持っていたつもりでした。
去年、県内の他の地域でも分娩施設がゼロになった時には、妊婦さんの不安はいかばかりかと居ても立っても居られない気持ちになったことを覚えています。
ですが、自分自身がいわゆるお産難民になると知った時、私はちょうど妊娠2ヶ月。激しく動揺しました。
大変なことになった。
私とお腹のベイビーはこれからどういう事態になるのだろう。そしてどうしていけばいいのだろう。
まさか自分の故郷で、まさか自分の暮らす街で、それに自分が子どもを産む予定の街で、直面することになるなんて...。
こういう時、テレビのニュースや新聞は驚くほど役に立ちません。
なぜ医者が減ったとか、自治体がどう受け止めているかとか、そんなことは生活者にはこれっぽっちも必要ないのです。
欲しいのは、自分に何ができて何ができなくなったのか。これから突きつけられる選択に必要な情報です。
調べると幸いにも私には2つの選択肢がありました。
実家と職場の間にある街の総合病院と、職場と反対の方向にある街のクリニックです。
前者は自宅から車で片道40分、後者は30分。
私は後者を選びました。
かつてその街の高校に通っていたこともあり、地理も多少は詳しいこと。
また少しでも自宅に近いこと。
そして何より、出産のその時まで同じお医者さんに診てもらいたい。
実は、このクリニックは帝王切開ができません。
私も妊娠して初めて知ったことですが、田舎の産科医院は麻酔科医がいないことがほとんど。緊急の帝王切開が決まったら、離れた大きな病院に救急搬送されます。
それでも、妊娠という不安な時期を、十月十日を共にしてもらったお医者さんに、赤ちゃんを取り上げてほしい。
病気ともケガとも違う。妊娠も出産も、何が起きるかわからないから。
きっと怖くてたまらなくなる瞬間がやってくると思うから。
そこまで考えを巡らして、気づき始めていたことがありました。
この街では子どもを産むことが蔑ろにされている。
幼い頃から見守ってくれたふるさと。
上京して、夢破れて戻ってきた私を、再び温かく受け入れてくれたふるさと。
そんなふるさとから突然繋いでいた手を離されたような気持ちがしました。
妊婦は置かれた状況の中で最善を尽くすしかありません。けれど寂しさと不安は、最後の瞬間までついてまわることになります。
それにきっと、この子の生きる時代には人口減少がさらに進んで、もっともっと過酷な未来が待っている。
無限に広がる可能性の中に、私はどうしても曇りが見えて仕方ありませんでした。
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