Backstage of THEATRE for ALL No.04|意図しない「わからない」をなくすために:ともに作品をつくる、モニター検討会&感想シェア会 Review & Share for The Woks
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Backstage of THEATRE for ALL No.04|意図しない「わからない」をなくすために:ともに作品をつくる、モニター検討会&感想シェア会 Review & Share for The Woks

特集:Backstage of THEATRE for ALL
precogが運営するバリアフリー型オンライン劇場「THEATRE for ALL」の映像配信における挑戦と葛藤と工夫の連続をレポートする特集。「つくる」と「かんがえる」をキーワードに、TfAのバリアフリー・アクセシビリティへの取り組みをひも解いていきます。

この記事は「THEATRE for ALL」から転載しています。
 ▶︎ https://theatreforall.net/feature/feature-2245/

舞台や映画作品における音声ガイドやバリアフリー字幕を付けることは、視覚障害者や聴覚障害者が作品を鑑賞することへの障壁を下げる一つの手段である。しかし当事者の視点が入らないと、健常者が押しつけた「バリアフリー」がときとして鑑賞の妨げとなってしまうこともある。視覚障害や聴覚障害をもつ当事者らは、映像鑑賞の現場に何を求め、どのような「バリアフリー」を期待しているのだろうか。

つくり手と当事者が作品について意見を交わし合う「モニター検討会」

THEATRE for ALL(以下、TfA)では、パラブラ株式会社による監修のもと、映画・映像・演劇などに字幕や手話、音声ガイドを表示する仕組みを整えている。これらのバリアフリー版の制作をする際には、視覚障害者や聴覚障害者がモニターとして参加し、意見交換を行う「モニター検討会」が開催される。

モニター検討会では、作品の監督やプロデューサーが同席し、制作したバリアフリー字幕や音声ガイドによって作品を理解できたか、どのように感じたかを直接対象者にヒアリングを行なう。その上で、作品のつくり手とモニターとともにより良い表現を探っていく、バリアフリー版の制作に欠かせない大事な場だ。

メッセージを伝えるために、作品の試みに寄りそう

今回対象となった作品は、河合宏樹監督によるドキュメンタリー作品『True Colors FASHION ドキュメンタリー映像「対話する衣服」-6組の“当事者”との葛藤-』(True Colors Festival – 超ダイバーシティ芸術祭公式作品)。若手ファッションデザイナーを世界に輩出し続ける私塾「ここのがっこう」の卒業生と在校生から選抜された6人のデザイナーが、6人の異なるモデルに向き合って作品制作に挑んだ数カ月を追った映像作品だ。

本作の「オリジナル版」では、字幕・音声ガイドを使ったひとつの「試み」が挿入されている。それは、各デザイナーの作品をそれぞれのモデルが着用した最終成果のシーン。写真・構成:LILY SHU、音楽:蓮沼執太、監督:河弘宏樹によるコラボレーションのもと、同じ映像が2回繰り返される。1回目は蓮沼のサウンドとLILY SHUのビジュアルのみで表現されるバージョン、2回目は「バリアフリー字幕」と「音声ガイド」を組み込んだバリアフリー対応バージョンだ。

このシーンは、「音楽」と「音声ガイド」を聴き比べることや、「写真表現」と「バリアフリー字幕」を見比べることで、表現と情報保障という手段の、双方の特徴について考えたり、それらのマージナルな領域や限界、あるいは可能性について思いをはせるきっかけとなることが意図されている。自分とは異なる聴こえ方、見え方、をしている他者への想像力を働かせる機会となる可能性もある。いずれにせよ、健常者、バリアフリー版の利用者も含めたあらゆる視聴者に対するメッセージがこもったパートである。

そんな本作のバリアフリー版制作に協力いただいたのは、視覚障害者の鈴木海人さんと、聴覚障害者の山崎有紀子さん。普段からモニター検討会に参加する2人には今回の試みはどう映ったのだろう。

▲「字幕・音声ガイドなしVer.」
「字幕・音声ガイドありVer.」は59分23秒からスタートする

山崎さんは高音が聞こえなかったり、音が歪んで聞こえたりする「感音性難聴」の聴覚障害者だ。普段は両耳に補聴器をつけているが、舞台や映画を鑑賞する時は字幕が欠かせない。舞台の字幕に関する意見交換会で字幕のスタッフである蒔苗みほ子さんから誘われたことをきっかけに、パラブラのモニター検討会に参加するようになった。

字幕付きの舞台や映画を鑑賞することが多いという山崎さん。10年前と比べるとバリアフリー字幕は増えつつあると感じる一方で、実際に字幕が付いた上映がある日数が少なかったり、字幕の質にバラツキがあるなど、まだ舞台や映画を観ることに対して壁があると感じているという。

生まれつき視覚障害を抱える鈴木さんも、人づてに紹介され検討会に参加するようになった。彼は普段から邦画、特にアニメ映画を積極的に鑑賞することが多く、最前席に座れば「なんとなくの視覚情報」も得ることができる。

近年では映画館だけではなくNetflixのような配信サービスでも音声ガイドが普及しているので「意外と世の中には浸透している」と感じる一方、「映画をフラッと観に行く」ことへのハードルは少なからず感じているという。今回は上記の2人に、モニター検討会に参加してみての感想を聞いた。

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▲今回インタビューに答えてくれた山崎さん

「それぞれ違う“障害のレベル”にいかに対応するか」検討会での悩み

『True Colors FASHION ドキュメンタリー映像「対話する衣服」-6組の“当事者”との葛藤-』の後半部分、何もガイドのない映像と、バリアフリー日本語字幕がついた同じ映像が繰り返される映像部分を鑑賞した山崎さんはまず「映像がとても魅力的で字幕なしでも楽しめた」と感想を述べる。その上で「聴覚障害の度合いは人それぞれなので、どこまで字幕でディテールを補足すべきか悩んだ」と語る。

山崎「私は難聴であるぶん、ほんの少しだけ聞こえる音が何の音なのか気になるなど、繊細な表現に注意が向きがちなため、字幕で細かく補足してもらいたくなりました。とはいえ難聴者の意見だけを出しすぎてしまうと、音の情報を必要としていない人にとっては情報過多になってしまうかもしれません。モニター検討会はろう者と難聴者とペアでやらせていただくことが多いので、検討会は両者の意見をすり合わせ、字幕作りに活かして頂く場であると捉えています。」

「音声ガイド版」を鑑賞した鈴木さんも、視覚障害が先天的/後天的かによって、表現の理解度が異なることを意識しながら検討会に参加したという。

鈴木「私はあくまで音声ガイドを“わからない部分を補助するツール”だと思っています。今回はドキュメンタリー作品だったので、よりリアルで細かな情報が欲しいと思いました。特にファッションにまつわる映像だからこそ、装飾の真珠も“パール”という言葉だけで済ませてしまうと、それがコットンパールなのか本物の真珠かで、服全体のイメージが大きく変わります。制作者の方とも『こういう表現の方が良いと思う』というアドバイスではなく『今の説明からこんなイメージが浮かんだんだけど、合ってますか』というすり合わせをすることの方が多かったです。

別作品の例になりますが、音声ガイドで『ターザンのように飛び移る』という表現を用られていたことがありました。ただ、先天的な全盲の人はターザンを視覚としてインプットできていないので、どういう状況かが理解できないと思うんです。誰にでも通じる言葉を考えながら、かつ台本に想像を妨げるような主観的な表現が入ってないか、を検討会では意識しました」

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▲今回インタビューに答えてくれた鈴木さん

「健常者も舞台や映画の内容を理解しやすくなる」というバリアフリーの可能性

映画監督やプロデューサー、視覚障害障害者や聴覚障害者など多くの人が意見交換をしあい、バリアフリー版の表現が研ぎ澄まされていくモニター検討会。ただ先述した通り、まだバリアフリー上映は国内に浸透しきれていないのが現状だ。山崎さんは「バリアフリー上映とは聞こえない人・見えない人のためだけじゃない」という意識が広まって欲しい、と語る。

山崎「自分もいつかはバリアフリーが必要になるだろう、という意識を持っていけたらいいのかな、と思います。私も年齢を重ねるとともに聴覚も鈍くなってきています。そういった老化による知覚の変化は、今はバリアフリーが必要ない人にも起こりうるはず。バリアフリー上映があるということは、これからも安心して映画作品を楽しめるということにつながるのではないでしょうか。

それに、バリアフリー字幕や音声ガイドは、健常者にとっても新たな価値観や鑑賞方法になると考えています。『True Colors FASHION ドキュメンタリー映像「対話する衣服」-6組の“当事者”との葛藤-』の監督である河合宏樹さんの作品『うたのはじまり』では、音楽を絵で表現する“絵字幕”という手法を取っていました。そういう新たな表現を通し、舞台や映画の内容を理解しやすくなると思います」

鈴木さんは「音声ガイド付きで何度でも繰り返し観たいと思えるようになれば良い」と、音声表現ならではの可能性を指摘する。

鈴木「オーディオコメンタリーのような音声ガイドがあれば、健常者の方でも興味を持ってもらえるかもしれません。アニメで映画には出てこないキャラクターの声優さんが音声ガイドをやっていたり、シーンに応じて声色の変化があったりすれば、コンテンツとして面白くなるのではと思いました。

そもそもモニター検討会に参加する前までは、映画をバリアフリー上映で観る、ということに『本当に作品を“観ている”って言い切れるのか?』という気持ちがありました。だからこそ、音声ガイドや字幕ガイドに監督やプロデューサーが関わっていることを知った時、すごく嬉しかったんです。バリアフリーが映画に対し後付けではなく、映画に組み込まれていることを実感しました」

つくり手としてのバリアは説明をしないことの傲慢さにあった

2人の話を聞いた上で、TfAのプログラム制作を務める関萌美(株式会社プリコグ)は「健常者を含めたより多くの人の『わからない』への障壁が下がるのでは」と、検討会の可能性に期待を込める。

「モニター検討会に参加すると、事前に作品を見た時にはわからなかった、『理解したつもりになっていたもの』『見えていなかったもの』『聞こえていなかったもの』を発見することがとても多いので驚きます。作品のつくり手側のディレクターや監督にとっても、新たな発見は多いようです。だからこそ、モニターさんの想像力を借りることはひとつの重要なヒントになります。

健常者でも、演劇やコンテンポラリーダンスなどには『難しそう』『理解できない』と高いハードルを感じられる場合があると思います。そういった時、字幕や音声ガイド、さらには山崎さんのおっしゃっていた“絵字幕”のような表現は、『わからない』ことへの障壁を下げるツールとしての可能性も秘めているように感じています。今後、誰か特定の人だけに必要なものではなく、より多くの人が楽しんでもらうための手段になればよいなと、おふたりの話を聞いていて感じました」

多様な感想がつくり手に与えるヒント:感想シェア会

では、より多くの人が楽しめるような“バリアフリー”を取り込む際、制作・ディレクションサイドはどういったことを意識すべきなのだろうか。

2021年2月19日(金)に開催された、障害当事者とともにアーティストのインクルーシブについて考えるワークショップ「感想シェア会」では鑑賞者の対話を通し、制作者側の意識や考え方における「バリアフリーへのヒント」が垣間見えた。

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▲「感想シェア会」の様子。

参加者は音声ガイドと字幕のついたバリアフリー版のコンテンポラリーダンス映像『n o w h e r e』を鑑賞し、作者であるダンサー・湯浅永麻さんとともに作品について対話を行った。ワークショップには、アスペルガー症候群とADHD混合型の発達障害や弱視、動く光と強い光が見られないなどの視覚障害、右下肢障害など様々な種類の障害を持つ障害当事者6名が参加した。

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『n o w h e r e』では、湯浅さん自身が作品の音声ガイドを手がけている。彼女はダンスを言葉で表現することの難しさも感じる反面、その“難しいと感じること”そのものに傲慢さを感じたという。

湯浅「ダンスを説明するということはダンサーでも難しく、お客さんに委ねるべきで説明をしすぎるのはナンセンスだという風潮もある。でもこの企画に参加してモニター会をやった時に、自分のなかのつくり手としてのバリアはこの傲慢さなんだと思ったんです。それで音声ガイド的なものをつくろうと考えました。

私はいつも作品をつくる時に、絵を描いたり、簡単なビデオをつくってスタッフなどに説明するので、これだ!と。状況説明的なものは必要なところだけに入れて、入れる時もものすごく自分の視点での音声ガイドにしようと思いました。状況説明というよりもつくり手から見た感情の流れなどにフォーカスした、音声ガイドというか、映像は観なくてもいい“音声作品”という風にしたかった」

また、湯浅からは、感想シェア会から制作者としての気づきをもらったという言葉も聞こえた。「自分がまだこんなにもバリアがあるんだと気付かせてもらって、試行錯誤する機会をいただけて嬉しかった」という湯浅の言葉からは、バリアフリーという取り組みが、単なる問題を解決するだけの「ネガティブチェック」を超えた作品制作の手法にもなりうることをしめしている。新しい気づきを通じて、アーティストに新しい視点をもたらすのだ。

さらにワークショップ後、視覚障害をもつ参加者からは次のような感想が上がった。

「説明する側は主観をどこまで入れてよいのか、受けとる側は先入観をどのくらい取りさって作品に向き合えるか、お互いの主観と客観のあり方によっても、作品に対する印象や感想が変わると思いますし、その意味で音声ガイドの可能性をさらに広げることもできそうに感じました」
(※参加者のレポート全文はこちら

バリアフリー字幕や音声ガイドといった機能は、作品を“正確に”鑑賞するための手段である。一方で、動きや音を言葉に置き換える時、ただありのままを変換するのではなく「なぜその表現を用いるのか」「その表現を用いることで本質的に何を伝えたいのか」を考えることで、新たな表現が生まれる可能性も秘めている。いずれの場合においても、それぞれの鑑賞者と作品の間をつなぐ回路に対して真摯に向き合うことが、作品と向き合うことのハードルを下げることにつながるのではないだろうか。

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