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狂気のメタフィクション『メタルギアソリッド2』をプレイした感想

 ところが、その理由は力のない理由、理由もどきなのです。
 (草野原々『大絶滅恐竜タイムウォーズ』より)

 先日『メタルギアソリッド2』をクリアしました。とんでもねえ。やりやがったなVIDEO KOJIMA。こんな怪ゲームがメジャー大作みたいな面構えをしていい訳がない、これは異常です。

 令和3年にもなってふと「メタルギアやってみたいな~」と思い至り、初見でプレイし回っております。プラナリアです。愛機PS VITAでMGS、MGS2と続けてクリアしたのですが、2の終盤が大変なことになってしまい、いてもたってもいられず本記事を執筆するに至った訳です。一体どうなってるんだこのシリーズは。

 なお、本記事ではストーリー部分を中心に記述し、ゲームプレイに対する感想は少量に留まっております。筆者のゲーム経験が乏しいので、おいそれと雑語りできないからです。ご容赦下さい。(それでもゲームとして大変楽しめたことは事実!)

 ◆◆◆以下、作品のネタバレを含む為、未プレイの方は自己責任で◆◆◆



『METAL GEAR SOLID』

 問題の『2』に触れる前にまず前作の感想を記していきたい。かつてメタルギアの脅威から2度も世界を救った真の男スネークは、アラスカのオレンジ農園で張りの無い余生を送っていたところに呼び出され。古巣FOXHOUNDの占拠するシャドーモセス島に単騎潜入する事となる。彼はミッションの最中、自身と瓜二つの首謀者リキッド、大佐の娘メリル、謎のサイボーグ忍者などと出会い、大いなる陰謀に巻き込まれる……といったお話。

 この『1』のキャラクターとストーリーがどうかというと、純粋に最高だった。とにかくエンタメ地力の高さが随所に現れており、そんな面白さに圧倒された。『20世紀最高のシナリオ』だなんて大仰なコピーも付いたそうだが、実際それも納得の出来だ。

 具体的にどこがどう良かったかと問われると本編の羅列になりかねないが、あえて1つ挙げるなら、ボスキャラたるFOXHOUND連中の強烈な魅力になると思う。決して広くはないシャドーモセスという舞台に、ボスラッシュめいて次々現れては、どいつもこいつもEMOく死んでいく……王道にして最強のドラマだ。

 1面ボスかと思いきや実は一番ヤバイ奴だったという、オタクの大好物なオセロット。やりたい放題なメタネタと壮絶な過去とのギャップで温度差発電ができるマンティス。"癖"の塊なウルフ。パワー大学卒のレイヴン。ある種最も壮絶なオクトパス。もはや言うまでもなかろう、リキッド・スネーク。悪の幹部軍団の教本として、是非とも参考にしていきたい。

 (というかメタルギアって、普通にスーパーヴィランみたいな奴らを出して大丈夫なリアリティラインだったんですね……という驚きもあった。てっきりリアル系な軍事モノだと思っていたので……)

 もちろん味方陣も負けじとイカした連中ばかりだ。疑心悪鬼の果てに真なる友情が浮かび上がる大佐は最高だし、姪のメリルも後半で囚われ姫と化したことが不満な位好きだ。やや影の薄いナスターシャも、無線を聞けば好きになるはず。そして、おお、おお!誰にも属さぬシャドーモセスのジョーカー、俺達のサイボーグ忍者!!!彼以上のライバルキャラを私は知らない。変わってしまった俺達とその関係、だが最期に煌めく真の男の絆、嗚呼!君も泣け!

 これで主人公のスネークが微妙だったら片手落ちというものだが、これが最高なんだから仕方がない。唯一の欠点と言えば、私自身のプレイヤースキルが至らないせいで、言動に反してかなり情けない感じになっていることだろうか(やたらエイムの弱い伝説の傭兵、先に進めずもたもたする英雄など)。

 関係ないけど、ED後の余韻も冷めやらぬ内に「みんなのFOXDIEを振ってスネークを応援しよう!」みたいなこと言われるので不覚にも笑ってしまった。

 クライマックスにかけての展開には興奮しきりだったし、いやはや良いものを体験させて頂きました。この調子で『2』もガンバルゾー!

 ……そう言い残した数日後、正気を失い虚ろに呟くプラナリアが発見されるのであった。

『METAL GEAR SOLID2』

 初めにことわっておくと、筆者はこのゲームを手放しに評価するつもりはない。部分的にはかなり辛辣になるかと思われる。ゲーム経験に乏しい私でも、この作品の異様さは手に取るようにわかる。

 確かにゲームシステム面では前作から進化しており、アクションはより一層楽しいものとなっていたと思う。だが問題なのはそういう話ではない。優れたキャラクターとプロットに裏打ちされた、終盤の圧倒的な盛り上がりを魅せてくれた前作とは対照的に、本作のそれは恐ろしく空虚で、白々しく、およそ一般的なゲーム的な盛り上がりとはまるで縁がない。道中の時点で露呈していた本作の歪みが花開き、そしてこれまでの全てを蹂躙し尽くすクライマックスに、私は放心するほかなかった。

 お話は前作から地続きではあるが、我らがスネークを主役として操作できる期間は短い。海軍タンカーでの騒動が終わると2年が経過し、テロリスト潜むビッグシェルなる施設に単騎潜入させられる。キャンベル大佐の指令のもと、さながら『1』のシャドーモセス事件をなぞるようなシチュエーションで。そして操作キャラがマスクを脱ぐと、そこから銀髪の二枚目が飛び出した。そうだ、これ以降の主人公は我らがソリッド・スネークではない。奴の名はジャック、コードネームは本作戦より「雷電」と改められる。

 この雷電ときたらどうだ、スネークは真の男だが雷電はそうではない。何もかも決断的なスネークとは対照的で、まだ人間として発展途上の男だ。優柔不断でよく悩みがち、少なくとも、プレイヤーである私の下手下手プレイには、スネークよりかは似合った奴だ。(無論雷電もチョー強い戦士な事は承知だが、消去法でこっちのが似合うと思えてしまう、ごめんね雷電)

 この辺りのキャラ造形好みが分かれるだろうが。とにかく驚いたのが、EDまでこのままずっと雷電が主人公の座に居座るという事だった。終盤でまたスネークのターンが訪れたり、また最終決戦では2人を同時に操作したり……とかいう淡い期待は特に応えられなかった。そんな……。

 主人公周りのあれこれは一旦保留にするとして、明確に不満があると言えるのはサブキャラ周りだろうか。特に初出ヴィラン陣のドラマに関しては前作の幹部陣と比較すると明らかに見劣りする。道中ミッションにも大きく絡んだボンバーマンはともかく、死ぬほどしょっぱい幕切れの人(人?)、マトモなボス戦もなくムービー死する人(だがその死に様に関して言えばは最高だ)、半年前に死んでる人、の4名で構成されており、塩い。彼らが好きな方々には申し訳ないが、FOXHOUNDという最高のヴィラン組織を排出した作品の続編がこれでは、パワーダウンが否めない。

 それにメインヒロインのローズも面倒臭い性格だし、雷電との無線会話も正直かったるいという印象になってしまった。2人とも、もっとこう楽しい話題とかしない?例えばほら、中国に伝わるコトワザを曲解する遊びとか……

 そんなキャラクターを引き連れ、展開するストーリーは、前作のセルフオマージュを押し出しながらも前作以上に複雑怪奇だ。アーセナルギアに愛国者達と、謎の答えは次々と開示されるが、根底の不穏さは解消されないまま、事態はクライマックスへと至る。

そして、このクライマックスこそが本シナリオの真価であり、最大の歪みだ。産まれたままの姿と化した雷電の前に現れたのは、現実離れしたアーセナルギアの内装と、いよいよバグり始めたメカ大佐の無線。無線の他にも疑似ゲームオーバー、といったメタい演出が繰り出される(それもマンティスの時とは違い、おふざけでありながら恐ろしい)。

 それから天狗兵を退け、量産型RAYにスティンガーを撃ち込みまくった後、長いながいムービーが始まり(これが本当に長い!)、愛国者達による策謀『S3計画』の全貌が語られる。全ては連中の計画の一環でしかなかった。なぜ雷電が主人公でなければならなかったのか?なぜあざとく前作のリフレインを挿入し続けていたのか?それらの答えが、これ以上ない程残酷で、底冷えするような形で突きつけられる一連の展開に私は打ち震えるほかなかった……

 アキラ100%ごっこをする雷電。この後降りかかる残酷な運命も知らないで……

 通常、ファンサービスとして用いられがちなセルフオマージュという道具も、S3の魔の手にかかれば憎むべき敵の策略に堕ちてしまう、なんという意地の悪さ。そんなS3の正当性を垂れ流す愛国者たちのご高説はどうだろうか。愛国者達など、どこにでもいるスカム支配AIの1種でしかないだろうに、そんな連中の語る嘲笑の数々のなんたる魅力的なことか。

 もっとも連中の主張を全てを真に受けるつもりはない。悪役の主義主張には大体誇張や欺瞞が含まれているものだし、なによりスカム支配者が俺達を束縛する理由とやらに同意なぞしたくないからだ。だがそんな詭弁をもっともらしく魅せて、その気にさせてしまう魅力が確かにあった。2は1より悪役が優れていないと言ったが、愛国者達に関しては違う。たぶんこれからも愛国者達が敵として登場するだろうが、連中は本作の黒幕を務めるにふさわしい、素晴らしい悪役だと思えた。

 そして、そんな愛国者達とS3計画の毒牙にかけるに最も似つかわしい主人公が雷電だったのだろう。スネーク一行は愛国者達の詭弁に抵抗できるだけの精神を持ち合わせているし、そのうえでS3計画における唯一の例外として働いてくれた。だからスネークはプラント編の主人公にはふさわしくなかったのだろう(それはそれとして、せめて忍者や幸運と戦うパートくらいは欲しかったよな……)。

 私は、本作ストーリーの主題について「愛国者達に対する敗北パート」だと思っている。そして本作における主役性とは、ただ状況に操られるがままの奴隷だと考えている。なぜなら、そうしたなすがままの傀儡こそ、S3の恰好の餌食だからだ。

 タンカー編もスネークの敗北で幕を閉じるが、全てが明かされるプラント編では、より一層連中の当て馬に適した主役が求められた。スネークとは違い、確立した自己を持たない者が。その精神に至るまで、S3に完膚なきまで屈服させられる主人公が要請された。だから君を選んだ。そうだとしたら雷電が余りにかわいそうじゃないか。

 ほとんどFFSの操作キャラ変更パート(※)に近い内容であり、そんなお話にゲーム本編の大半を費やしてしまうのはもう狂気の沙汰だろう。あのREX戦~脱出までのパートで味わった魂の興奮は、もはや影も形もない。因縁の父子対決さえもどこか白けたアトモスフィアだ。このやたら弱いラスボス戦を以て演習の全行程は終了する。結果は言うまでもなく愛国者達の勝利だ。

 ※FFSの操作キャラ変更パート
 web小説『FINAL FANTASY S』において、操作キャラ(=視点)がベリュルから別の脇役に移るパートのこと。シュナイデン、ダイスケマン等が有名。なお操作キャラに選ばれた者はそれなりの確率で死ぬ。

 こんなことされて、前作の路線を期待して飛び込んだ人々は大憤慨した事だろう。クライマックスなのに全然盛り上がらないシチュだし、こちらが操作できないパートが深刻なレベルで長すぎる。私もその辺どうかと思っているが、そんなゲームとしての不出来さすらも些細に思えてしまう程、この物語が刺さってしまった。刺さってしまったのでもうどうしようもないのだ。

 記事タイトルにもあるように、私は本作はメタフィクションに分類している。「前作のセルフオマージュ」「主人公交代」「プレイヤーキャラという名の操り人形」という地形効果を利用した暗黒メタ創作、少なくとも私はそう信じきっている。

 私はメタフィクションが好きだ。でなければ、大絶滅恐竜タイムウォーズみたいな怪文書をオールタイムベスト枠に入れてない。仮面ライダージオウの夏映画なんかもド真面目なメタSFと思っているし(それはそれとして滅茶苦茶ふざけた映画でヤバい)、特にヘボットの最終回は、フィクションと、その受け手と作り手の果てしない賛歌を高らかに歌い上げ、物語の完全なる勝利を宣言した、とでも言うべき内容で私は深く感動したのだった。

 メタルギアソリッド2は、これらの偉大な作品群に比肩しうる異様な迫力を持っていたと確信している。21世紀最高のシナリオかどうかは分からないが、21世紀最高のメタフィクションに認定しても憚られないんじゃあないか。

未来へ

 ゲーム経験に乏しいとはいえ、ゲームの感想記事のくせにここまでまるでプレイの感想に触れてない事が気になり出した。反省してちゃんと述べていきます。

 ステルスアクション自体も楽しく、1から2にかけてそれが進化していた事も好印象だが、予想外だったのがその周回の楽しさだった。クリアタイム、死亡回数、レーション数などがスコアとして記録されるので、プレイの度にさらなるハイスコアを狙う楽しみがある。特に2だとパート別に分かれているお陰でリトライのハードルが低く、その辺が周回プレイの楽しみに気付かせてくれるのに一役買ってくれたことでしょう。

 ただそうした周回プレイをするとなると、興味のないムービーや無線を飛ばすのが億劫になるのが玉に瑕か。私は2を絶賛したけど、やっぱりゲームでムービーとかが長すぎるのは良くないな!ワハハ!コアのゲーマーの方々が長いムービーを嫌っておられた理由が少し分かった気がします。

 そう言いながらストーリーの方に戻ろう。ここまで物語が吹っ切れてしまったら、ローズも実在せず(あるいは実在したが拒絶される)、雷電はいよいよ現実と幻の区別がつかなくなり、発狂して切り裂きジャックと化した彼を、スネークが引導を渡して……な終わり方でも全然良かったが、流石に救いの手は差し伸べられた。

 演習における唯一の想定外だったスネークが彼を諭し、そして現実のローズが迎える、そんなエピローグの中で最も印象的だったのが、プレイヤー名が刻まれたドッグタグを投げ捨てるシーン。この大がかりなメタ演出に、傀儡からの卒業を絡めたシーンに私は本気で感動した。感動の総量は前作に及ぶべくもないけど。あの瞬間だけは何にも代替できないだろう。

Photo by Vasily Koloda on Unsplash

 これから先、雷電は、愛国者達はどうなっていくのだろうか。4,5のプレイ環境が私の手元にないのがハードルになっているが、最悪ノベライズで済ましておこうか、でもそれは勿体ないような……なにはともあれ、これから先のメタルギアの物語が楽しみだ。

それはそうと俺の名前をポイ捨てするな。

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