コーヒーとモカ

 ふふふっと笑う、モカコーヒー。

 カフェ「タユタイ」で語り合う、青春の話。

 終わりから、先にある、その歌は、永遠の旋律のままに、モカコーヒーの焦げた香りとまじりあい、イランイランの香水が、官能の火を、僕に灯す。

 僕は聖書を読んでいる。

 黒いブックカバーにいれた、新約聖書だ。

 イエスは言う。

「完全な愛には恐れがない」

 僕はこう言い返す。

「完全な愛ほど、退屈なものはない」

 すると、モカはクスッと笑って、僕に流し目を送る。

「タユタイ」の中で、たゆたうようなアルゲリッチのピアノが流れている。

 革張りのチェアに座るモカ、僕は滑りこむように横に座った。そっとモカに、耳打ちする。

「君の好きな曲はなに?」

するとモカは狂おしいほど清い眼を、ぱちくりさせ、頬を薔薇色に染める。

「ねえ、聴かせてよ」

 と僕はせがむ。

 モカはこう言った。ほっぺたを、リスみたくふくらませて、

「はっきり言って、あなたよりも、コーヒーの方が好きなの」

 すると、アルゲリッチのピアノが、悲しい響きに変わって、ショパンを奏でる。

 葬送。

 僕はローテンションになり、そっとカウンターチェアに戻って、孤独のため息をつく。

 結局、僕の恋は、恋しいままで、終わるのか。

 するとモカが隣にやってきた。

「あなたって、本当に、臆病者ね」

 僕はクラップハンズ。

 そして僕とモカは、尽きない話で盛り上がり、火のような愛が、僕らの世界を焼きつくすように飾り、恋は、激しく燃え上がり、陶酔の糸が切れた時、逝った。


命令しまっす💛。おねがいしまっす💗。えらんでくだいさいっす。自由と孤独を。