ストリートファイターのプロリーグにパンピーがアナリストとして挑んだ時のお話 part4

まずはパート1からお読みいただけるとありがたいです。
パート1
https://note.com/ppsnuwa/n/n4d28c1bd3502
パート2
https://note.com/ppsnuwa/n/n62646ec0b3f2
パート3
https://note.com/ppsnuwa/n/n3edf637cabbb

ということでやってまいりましたパート4です。
今日はまず、プロプレイヤー2人から頂いた”ある疑問“についてのお話から。
 


https://twitter.com/akiradayooooo/status/1622793833447845888?s=20&t=mD-ta_6HnbHrDtwt9Vpgyg
 


https://twitter.com/maneater_dgr/status/1622093960251580416?s=20&t=mD-ta_6HnbHrDtwt9Vpgyg
 
 名古屋OJA所属のあきら選手と、サイクロプスアスリートゲーミング所属のどぐら選手のお二人からです。まさに情報を受ける側のプロらしいご意見です。
 
 二人がそろって使った“乾化”という単語、最初私は「乾燥すると俺が怒るとは一体・・・?」と疑問に思ったのですが、のちにテニスの王子様に登場する頭脳派データプレイヤーだった乾貞治のとった「俺はたった今からデータを捨てる」に起因する「取ったデータを無視する」ということを乾化と呼んでいることが分かりました。(そもそも作中屈指のデータキャラなのにデータを捨てる代名詞にされるこの悲しさよ)
 
 詰まるところ「せっかくとったデータを選手が無視したらどう思うのか?」ということで、これについての回答です。
 
 簡潔に申し上げると「何も思いません」。
 
 が、ある条件付きです。 
 それは、ちゃんとデータを無視する理由があるときです。
 
 例えば実際にこういうことがありました。
 ガチくん対ニシキンさんに向けてのデータを作っていた時のことです。この時の試合に向けてのスパーの中で、ニシキンさんがキャンセルEXワールに対してリスクを負わせる行動ができずにいたことを事前にデータとしてとっていました。
 しかしながら本番10分前ぐらいのスパーの内容を見ると、恐ろしいことに高確率でキャンセルワールへの割り込みを成功させているではありませんか。私は急いでガチくんに「ワールのデータは忘れてください」ということを伝えました。
 相手の努力により直前でデータを覆されることはあるという一つの例です。
 
 そしてもう一点はプレイヤーの感覚を大事にしてほしいと考えています。
 僕の中では「データはプロプレイヤーの感覚をまだ上回らない」と考えています、実戦の中で違いを感じたならばそれを第一優先で考えてもらいたい。データが邪魔になってはいけないと思っています。
 
 ちょっとテニプリは詳しくないのですが、さすがに乾も理由なくデータを捨ててはいないはずなので、一応こういう回答となりますね。
 
 もし何も考えず無視されたとしたら怒ります。
 
 というわけで本編に参りましょう。
 
9.チームの戦略アナリストとなった今、どこまでやるべきか
 
※ここから先はチームの指示ではなく、私自身の判断で行ったことです。不愉快な気分になる方もいらっしゃるかも知れませんが、申し訳ございませんとしか言いようがありません。しかし、ここまでやるのがプロだと私は思っています。

 晴れて戦略アナリストとしてチームに加わった私たちですが、SFLが始まるに際し、まず全チームの全プレイヤーのリプレイを追跡するためIDをCFNで登録しチームごとにカテゴリー分けを行いました。さらにSFLに登場するキャラ別のシートもわけ、キャラごとにディスコードのページも作成。

これを作っただけでうんざりした記憶があります。


 そしてここから影の仕事が始まります。
 
影の仕事その1:サブ垢探し
 
 パート1にも少し書きましたが、「サブ垢の洗い出し」というのは大事な仕事の一つでした。チーム内でサブ垢を使い合い対戦するものはもちろん、スパー相手にもサブ垢使用することをお願いするものなどさまざまでしたが、あらゆる視点からそのプレイヤーの特定作業を進めました。
 
 まずは該当する組み合わせを異常な回数実施している同一アカウントの組み合わせを見渡すところから始まります。ポイントを持っていないルーキー同士の対戦で長時間行っている場合はかなり”匂い”ます。
 まずは相手のアカウントをチェックし、国籍とPCかPS4かを確認。ここでPS4ならばさすがに除外します。
 そして国籍ですが、例えばアメリカ対アメリカならば疑問は薄れます、しかしアメリカ対日本や、訳の分からない国籍同士の対戦だとなお一層疑いは増します。
 
 そして対戦をチェック・・・とはまだいきません、それぞれのプレイヤーの対戦履歴をチェックします。この時に対戦履歴に例えばPS4のアカウントがあった場合は除外されます。
 ですがこの時になぜか有名プレイヤーとの対戦履歴が残っていたりするケースがあります。この時点で誰かのサブ垢ということが確定します。
 
 じゃあ対戦をチェック・・・しません、対戦を見ずにサブ垢が特定できればこれに勝る好材料は無いのです。サブ垢を使うプレイヤーは「リプレイの閲覧回数」に非常に敏感です。ルーキー同士の対戦のリプレイが見られることなど普通あり得ません、しかし、もし閲覧回数が1でも増えていたら?サブ垢がバレたと思うことでしょう。
 なので試合直前まで泳がせます、泳いでもらいます。泳ぎに泳ぎ切った後、情報を頂きます。
 
 では仮にルーキー同士の対戦履歴だった場合ですがここでもチェックフローが実は存在します。
 サブ垢を作るのは実は結構面倒くさいです、つまりこのように考えます。「このめんどくさい作業をお願いできる人=普段から対戦を当たり前のように行っていて、それなりに関係がある人」という仮定です。
 そう考えると、普段のメイン垢でも対戦を長く行っているプレイヤーにお願いしているに違いないと判断します。まっさら同士でもキャラの組み合わせが普段対戦しているプレイヤーと似通っていたら、かなり匂うという見方ができますね?あとは対戦が近い組み合わせを重点的に行っているか、対戦している相手があまりに限定的かなど、総合的に鑑みて特定を進めます。
 
 そしてそこまで考えてもなおわからない場合は対戦を見ます、ですがここまで該当しなければ大体外れですね。
 
 ここまで突き詰めた結果、ある程度の数のアカウントを見つけるに至りました。キャラごとにアカウント使い分けてみたり、定期的に新しく増やしてみたり、サブ垢のポイントをグラマスまで上げてみたり、いろいろやる人がいて面白かったですね。
 一番面白かったのはG8Sのメンバーのアカウントをしらずに見つけてしまっていたことでしょうか。
 
影の仕事その2:スケジュールを知る
 
 アナリストを行っていた終盤にはオフ対戦を行うプレイヤーもちょこちょこ増えだしていました。オフ対戦のデータをとることはできませんが、ある程度誰と練習をしているのかの推測を立てる必要はあるのではないかということで、各プレイヤーの配信に赴き、何気なく「土日おでかけしますか?」とか尋ねてみます。
 これで帰ってくるのはだいたいぼんやりとした答えなのですが、そのぼんやりとした時間とこの先の本番の対戦予定などを照らし合わせると、うっすらオフ対戦している可能性が見えてきます。やっていることはもはや完全なるストーカーのそれです。
 

影の仕事その3:キャラのネタを知る
 
 データをとっているとたまに「このキャラのこの行動の意図は何だろう?」という瞬間にぶち当たります。こういうときは大体ガチくんやぷげら選手に聞くと答えは返ってくるのですが、たまに両者でもわからないケースが発生します。
 
こういう時はどうするのか?
 
わかんないなら本人に聞くしかない。
 
 相手プレイヤーや同じキャラを使用する上級者の配信に伺って普通にネタについて質問します。これは日本のFGCの「ネタを隠さない」という精神に乗っかってここまでやりました。

 
影の仕事その4:配信に張り付く
 
 チームの練習配信や、リーダーの方の配信は欠かさず視聴します。戦略的な部分やキャラ相性・人相性の部分など、相手サイドが感じている結構大事な情報がぽろっと漏れてくることがあります。
 そこで出た発言をまとめて共有、スパー内容なども併せてみて、オーダーの予想を立てるのに結構大事だったりしました。
 
 
  体よく言えば探偵、やってることをそのまま表現すればもはやストーカーですが、1%でも勝率が上がるならばやります。
 このほかにもいろいろやっていましたが上げるときりがないので、ひとまずはここまでとしましょう。

 今回よりSFLのリーグ戦の内容に突入します。しかし全試合について書くことはない上、そこまで詳しく覚えてないので、特に印象深かった試合をぽつぽつ挙げることになると思います。
 

10.G8Sの強さがいきなり垣間見えた、衝撃の開幕戦

 まずは何と言っても開幕戦の対魚群との試合をピックアップ。開幕戦をアウェイながら0-4で飾り、スタートダッシュを決めた試合です。
 何より印象的だったのは先鋒をキチパ選手が務めたことだと思います。魚群の面々のキャラを見ると、ラシード、かりん、あきら、キャミィ、コーリンという編成。その中で十二分に練習ができるラシードの出しどころは難しいという読みの中で、本来ならばどのキャラにも不利がつかないカワノ選手が行くところ・・・でしたが、この時実はカワノ選手がワクチンの副作用でかなり体調的なピンチ、表には出しませんがこの日の欠場が決まっていました。
 
 しかし、こちらが想定してない欠場ということは、相手も全く予想していない組み合わせ。つまり完全なる奇襲がここで成立しました。アウェイで飛び出した想定外のザンギエフに魚群チームも困惑。キャミィやあきらは不安が付きまとう組み合わせということで水派選手のコーリンが登場。
 実際のところザンギエフはコーリン戦あまりやりたくない組み合わせだったにもかかわらず、キチパ選手の動きがさえわたり見事勝利、リーグの開幕戦の第一試合という非常に緊張する場面でしっかり結果を残したこの姿に、G8Sの強さを実感しました。
 この奇襲がリーグ全体に与えた影響はかなり大きかったのではないでしょうか、不利キャラが来るなどお構いなしでザンギエフがちゃんと出てくる可能性があると全チーム認識しました。実際その後他チームのスパーでもザンギエフ戦の練習を行う機会が明らかに増しており、その中でもキチパ選手は4戦3勝としっかり勝ち切り、リーグ優勝に貢献しました。

11.知っている人は知っている、あの奇襲の前夜に布石があったことを

 やはりSFL2021を象徴する事件といえば、第3節のV6プラス FAV RohtoZ!対mildom Beastの大将戦、ときど選手対ウメハラ選手の試合で起きたときど選手のバイソンピックによる見事な3-0劇ではないでしょうか。
 この奇襲に驚かれた人もたくさんいらっしゃるでしょうが、実は”ある試合”を見ていた人は、この作戦の可能性に気づいていたのです。

 それは本番を2日前に控えた10月17日のこと、忍ism Gamingの合同練習配信が行われていました。もちろん情報を得るため配信に張り付いていましたが、配信終了後当時忍ismに所属していたひぐち選手の配信にレイドが飛びました。そこにときど選手が登場、何試合かやってもらえないかとお願いし、なんとひぐちガイル対ときどバイソンの試合がここで行われていたのです。
 正確な記憶は定かではないですが、確か7-0のストレートでときどバイソンが勝利、試合後ひぐち選手のテンションがガタ落ちするほどの圧殺劇で、もしかしたらウメハラガイルに出るのではないか?と思わせるには十分な結果でした。
 ときど選手は後ほど、ガイルバイソンの練習は徹底的に隠し通したことを語っており、最後の仕上げであるこの瞬間だけ姿を見せていたということで、貴重な瞬間に立ち会えたのでした。

12.王からの指名

 そして先ほどのときど選手の奇襲がきっかけとなり、この年のリーグの中で、私が一番大変だった出来事が起こります。
 迎えた第5節、G8Sが対戦するのはmildom Beast。ダン、ポイズン、ダルシム、ガイルという相手の使用キャラに対して、明らかにアドバンテージが取れるのはバイソンを使うぷげら選手でした。
 この時はなんというか、お互いがお互い完全に当たる相手がわかっていたという不思議な組み合わせでした。

 先日のときどバイソンによるストレート負けを受け、猛烈なバイソン戦を積み上げるウメハラ選手、週300試合は優に超える怒涛のバイソン戦対策を行い、練習配信のあと同じくガイル戦を練習するぷげら選手にレイドを飛ばすなど、まさにバイソンへの挑戦状を叩きつけるかのような、壮絶なキャラ対策量でした。

 その練習量にはデータを作る私としてもかなり参りました。いつもその日の最新の20試合をデータに起こしていたのですが、いつまでたっても練習が終わらないのでいつデータを作っていいのかわからないという展開に陥りました。全期間でこんなことになったのはこの時だけです。

 このとき対ガイル戦ということで、さらに特殊なデータを取ることをぷげら選手より依頼されます。それは「ソニックを打つ距離」を分類するというものです。

 バイソンが対ガイルでアドバンテージを持つのは、強力な弾であるソニックブームを弾抜けで回避できるからというのが大きいです。ですがもちろんガイル側も弾抜けされないように近い距離か、逆にかなり遠い位置での弾の比率が多くなります。その中で弾抜けをしたらバイソン側が有利になりそうな弾を打つ頻度を調べ上げました。この時ぷげら選手が「ガイルの中足の少し外の間合いなら、ギリギリ見てから弾抜け間に合うと思います。」という言葉を聞き、プロって恐ろしいと思ったものです。

 実はこの戦いに望むとき、ぷげら選手はポリシーを曲げて戦い方を変えていました。本来この年のぷげら選手はガイル戦でスキル2、トリガー1の構成で臨んでいました。弾はターンパンチで抜けて打撃でリターンを取るスタイルを取っていたのですが、先日のときど選手は真逆のスキル1トリガー2の構成で攻略しており、やはりガイル戦はこちらなのではというチームの声もあって切り替えたという経緯があります。

 おそらくバイソンを使い続けていたぷげら選手にとっては攻略の答えを渡されたような何とも言い難い感情もあったのではないでしょうか。
 
 周囲の熱が異常に上がっていく中、ぷげら選手へのプレッシャーも日に日に増していきます。ぷげら選手の様子もどんどんおかしくなっていき、思わずガチくんも大将からオーダーを変更するか打診するほどでした。しかしぷげら選手はこれを固辞、ウメハラ選手からの”指名”に真っ向から受ける覚悟を固めたのでした。

 そして迎えた本番、もはや”予定通り”と言っていいでしょう。1-1とそれぞれがポイントを取り合い迎えた大将戦。アウェイ大将ぷげらに対するはホーム大将ウメハラは実現しました。

 この日、ウメハラ選手が用意してきた対策はVシステムを駆使するものでした。
 Vトリガーを2に変更し、Vリバーサルを当てて相手を吹き飛ばし、ラインを上げ相手を画面端に追い込む。Vゲージ2本で発動可能なトリガー2発動中のサマーソルトキックで、バイソンのダッシュストレートにリスクを与える。
 この二つを軸にバイソンを常に画面端に追い込み有利な状況をキープして戦い、ソニックブームや通常技の強みを活かすというもの。

 一方でこの戦略を踏まえた上でぷげら選手はウメハラ選手の癖に着目して戦いを挑みました。どうすればウメハラ選手の守りを崩せるか、リスクを与えることができる間合いのソニックブームをどれだけ打ってくるか、己のこだわりであるダッシュストレート先端当ての高い精度を見せつける。そして相手が置いてくるリバーススピンキックなどの大技に対して、差し返しスクリュースマッシュを決める。

 こちらは本職のバイソン、たとえキャラ対策をされていたとしてもときど選手に内容で劣るわけにはいかない、”ぷげら”のバイソンを見せる必要がありました。

 試合結果は1-3でぷげら選手の勝利。要所でウメハラ選手の作戦も光りましたが、ぷげら選手の気迫のこもったダッシュストレートの命中率がとんでもないことになり、なんとかこの大一番を制したのでした。
 
 この時の勝利の瞬間の動画がこちら
 https://mobile.twitter.com/CAPCOM_eSports/status/1455822062094745602

 私としてもこの勝利は本当にほっとしました。
 どこまで自分のデータが役に立ったのかはわかりませんが、ここまで力を入れた試合はやはり自分も戦っているような気持ちになって試合を見ていたことを思い出します。

 この勝利でついにV6プラス FAV RohtoZ!のポイントをかわしてG8Sがリーグの1位に踊り出ました。まさにターニングポイントと呼べる試合だったでしょう。

 今回は長くなりましたがここまでにしておきましょう。
 次は僕がやってしまった失敗のお話になるかと思います。

おまけ
ここまで読んでくれてる人に少しだけ
どういったシートを使っていたかです。

 さすがに中身のデータをそのまま見せるわけにはいかないので、ニュアンスが伝わるようちょっとだけ項目を残しています。
下のほうが切れてしまっていますが、この下にもデータが続いていたり・・・

 ちなみにこの項目、データがとり終わったときにはもちろんすべての空欄に数字が入ることになります。
 ほんまにつかれますよこれ


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