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【洗礼】いるんだよ、こういうクソが。

バイト先で起こった事件を紹介する。

私と師は朝10時から夕方6時までのシフトだった。
三交代制のため、夕方6時から深夜2時までは別のコンビが入る。

6時の交代の時点で「引き継ぎ」を行う。
引き継ぎと言ってもやることはレジ金の点検ぐらいである。
日によっては商品の仕入れが多かったりすると、私たちの時間内
に終わらなかったものをお願いするぐらいである。

ある時期、師は本来は6時上がりなのだが、
用事があって5時で帰る日が続いていた。
なので、5時から6時までの1時間、店は私ひとりになる。
正直、昼過ぎの時点でほとんどやるべき仕事内容は終えているし、
アダルトショップなんてそんなにバンバン客足があるわけでもない。

本当に「店番」のような時間である。

師が5時で帰り始めた日から6時の引き継ぎの際、
過不足金が頻繁に発生するようになる。

五千円マイナス。

ちなみに師が5時で帰る際、もちろんレジ金のチェックはしていた。
その時は問題はなかったのだ。
何度計算しても五千円マイナス。
私がお釣りをミスったのだろうとのことで、
私が五千円を自腹で補填した。
これが何日か続く。

決まって五千円のマイナス。

何日か経った頃、朝から師に前日の引き継ぎの際の出来事を話す。
毎日報告をしていたが、
まぁ私のミスもあり得るから気をつけようとなっていたが、
連日続いたため、師もちょっとおかしいと思い、
師が5時で上がってから後に打ったレジをメモっておくようにと言われた。
何時に、いくらのものをいくら受け取って、
お釣りはいくら返したか、をメモった。

たった1時間だし、そんなにお客さんが来る店でもない。
実際そんなにレジは打たないのだ。
やはりその日も五千円マイナス。
次の朝師に報告した。

この頃、私も原因はウスウスわかってはいた。
師も私がメモった紙とジャーナルを照らし合わせて、
5時から6時の間で五千円が
マイナスになることはあり得ないということになった。
ちょうど店長もいたので師と店長に相談した。
驚くべき回答が返ってきた。

「君が五千円抜いてるってこともあるからね。」

この言葉には驚いた。
さすがに師も呆れた様子で
「こいつが五千円抜いたとして、チェックした時
マイナス分こいつが自腹で補填してるんで意味ないでしょ。」

店長もさすがにあ、そっかみたいな顔をしていた。
たぶん寝起きだったのだ。

その日の夕方、ある仕掛けをすることにした。
仕掛けというほどのことではないが、
もしまた五千円のマイナスが出たら師に電話するようにと言われた。

案の定、きちんとマイナス五千円。
私は師にまた起こったと連絡をする。

師は店に電話をかけ、五千円マイナスだって?と
6時からのコンビに凄んだ。

「おれがチェックした5時の段階で過不足ゼロだったんだけど。
あいつに5時以降打ったレジをメモさせてるから
ジャーナルと合わせてみてよ。
あとカウンターの上の防犯カメラ治したから
録画できてると思うし今から見にいくわ。」


するとどうだろう。マイナスのはずだった五千円が簡単に出てきた。
つり銭の準備金を入れている金庫がレジ下にあるのだが、そこから100玉の棒金がこぼれ落ちていたそうだ。
6時からのコンビが慌てて出してきた。
もうわかりやすくてこちらが知らないふりをしているのが
難しいぐらいだった。

「あったなら良かったですwww」

私は五千円を払わずに済んだ。
おそらく私がマイナスを補填していた五千円は
彼らの懐に入っていたことだろう。
でもそれを返せと請求はしなかった。

結局この事件は「犯人はナシ」ということになった。
何日か五千円は無くなっていたが、たまたまその日は見つかったが
以前無いとされていた五千円は私のミスか、はたまた
本格的な「不明金」であるということになった。

これは明らかに犯人は確定しているのだが、これで2人もやめさせると
シフトに穴が開くし、何より店長自体がめんどくさがりのため
いろいろ言いたくなかったのだろう。

スタッフのすべてが、私も、師も店長ですらあの二人が盗っていたことは
心の中では知っている。

私自身も別にその裁定に文句はなかった。

むしろ「不正をしただろ」とも問い詰められることもなく、
ただその日からマイナスにされることがなければよかった。

翌朝、師ともその話をした。

この6時に交代するコンビは割とイケメンの二人で、どちらかと言うと
こんなアダルトショップで働くのが似合わないぐらいの二人だった。

要するに私はハナから舐められて馬鹿にされていたのである。
面と向かって悪口や、態度で示されることは全くなかった。
彼らは、私と面と向かっている時は友達のように接した。
笑顔で、冗談を言い合い、時間内にできなかった作業があっても
嫌な顔一つせず請け負ってくれた。

しかしそれは、単に師の目があったからで、私単体はどうでもよく
むしろカモにする気マンマンだった。
おそらく彼らは私からお金を巻き上げる策を考えていたのだろう。

私の師は店の中でも店長より威厳があったので、
私が師と二人の時は手が出せないでいたが、
師が5時で帰るということで罠を仕掛けるに至ったのだろう。

私はこの時はまだ、「社会は優しい」とか「社会は賢い」とか
「社会は正しい」とか思っていた。
大学を中退し、初めて社会人としてバイトを始めて、
「うまくいっている」なんて思っていた。

そんなことはまったくなくて「社会」はちゃんと「洗礼」を用意していた。

五千円を盗られ続けたことではない。

仲が良かったと思っていた彼らにそんな仕打ちをされたことが
「洗礼」だったのだ。

師は「あんな人間もおるよ。」と言った。

その後、彼らは以前のように仲良く話すことは無くなった。
交代の際も、レジ金の点検の時も後ろで黙って見ていて、
レジ金が合えばすっとカウンターに入ってきて
何かをし始める。

笑顔で冗談を言い合うことは無くなっていた。

よくよく考えてみると、五千円を抜かれていた時はレジ金のチェックは
彼らがやっていたのだがその時やたらちょっかいをかけられたり、
話しかけられたりしていた。

私をレジから、レジ金のチェックから意識をそらしていたのだろう。
それがバレてしまった今では私に話すことはもう何もないのである。

「社会」とはそういうものである。

誰かが自分の利益のために、
誰かを何かから意識を逸らし、
横手から何かを盗みとる。
どんなに自分に対して笑顔で、
愛想がよく、味方面していても
それは目的があってのことである。

社会とはそういうものだ。

一個だけ気になっていることがあった。

その店はいたるところに防犯カメラが設置してあり、
カウンター内にも設置してあったが、
カウンター内のカメラのみ録画機能が壊れており
映像はリアルタイムで映るのだが
録画ができないというポンコツ仕様だった。

「カメラ、いつ治したんですか?」

「治ってないよ。」


やられた。もし向こうも強気でいいですよ、
録画したやつ見ましょうってなったらどうするつもりだったのか。
「そんときはまた壊れてるねーでいいじゃん。」
私にはこういう器用さが魅力的だった。

そして不思議なマイナス五千円事件は幕を閉じ、普段の生活に戻った。
いろんな話や、「魔女の宅急便」や「ALWAYS~三丁目の夕日~」を
カウンターの録画できないカメラの映像を写しているモニターで見て
2人で号泣しながらレジを打ったり、
客がいないので店内の端っこと端っこでキャッチボールをしたりしていた。
いろんなことを師から教わり、夜はファミレスで無為な時間を過ごし、
1日の終わりに彼女の家で寝る、という生活をしていた。

そして私は、

突然ホームレスになった。

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