見出し画像

【飛躍】悪ノリをこじらせていた時代。

最終手段であった実家に戻る決意をした。
とりあえず戻って、種銭を稼がなければ。
師に保証人の相談をしたら、
保証会社という手もあるがお金がかかると教わった。
やはり金がないと何にもならん、ということで苦渋の決断だった。
久しぶりの実家は別段変わってはいなかった。

それから実家での生活が始まった。
実家での生活は、思ったほど息苦しくはなかった。
というより、帰らなかった期間が長かったのでむしろいろいろ口出しをして
またヘソを曲げられたらたまらん、という雰囲気は感じられた。

私は自由だった。
しかし家庭内は重苦しい雰囲気だった。
朝方になって酒の匂いをさせて帰ってくる長男を
父親はよく思っていなかった。
相変わらず寝床として実家にいたのだが、ここで大きな転機となる。

実家が引っ越しを決めた。
実家にはほとんどいなかった私は、
どういった経緯でそうなったかはわからないが、
私の実家には私の他に、私より優秀な個体がいて、
その個体に部屋をあてがいたいとのことで
団地では狭くなったということだろう。
元いた団地からさほど遠くないところへ引っ越した。

この引っ越しが決定されてから、実際家が決まるまでの間に
私は新しい彼女ができていた。

前回の追い出された彼女とはそんなに大きな間が空いていない。

そのころの私は、前回の彼女の一件で、味を占め女の子に声をかけたり
誘ったりすることに躊躇がなくなっていた。

やる気のない営業マンよりも確実に新規顧客を増やしていったが、
恋愛における「契約」にはまだ至ってはいなかった。

要するにまだ童貞のままだった。

そんな中バイト帰りに後輩とゲーセンに立ち寄った際、
シューティングゲームをやっている女の子が2人いた。
ゾンビを銃で打ちまくる系のゲームだった。

やたらうまかったのだ。
台の上にはコインケースに入った100円玉があった。
やり込んでいる感がはっきりとわかった。

私は思わず声をかける。
「めっちゃうまいやん!」
もうこの頃は気になったら反射のように声をかけまくっていた。

この時一緒にいた後輩の名は“シャブ”。
ちょっと危ないあだ名ではあるが、別に犯罪行為とはなんの関係もない。
彼の名誉のために言っておくが、
彼はそういう法に触れる行為は一切していない。
シャブはとても内気で、大人しく声も小さい、
存在感がないという特性がある後輩だった。

だから私は彼に「あだ名だけでもポップにしよう!」ということで
そのあだ名をつけた。
私は自分があだ名をもらえて嬉しかったことで、
他人にあだ名をつけるのが好きだった。
彼自身、シャブ自身はこのあだ名を嫌がっていた。

私とシャブ、そして女の子2人とで意気投合し、連絡先を交換した。
片方の子ががかわいい子だったが、シャブに譲ることにした。
シャブも私と同じように、女の子との接点がなく辛い思いをしていた。

私はあまりにも情けない最後だったとしても
とりあえず一回ヒットは打った。
いい勉強にもなった。ここはやはり先輩として譲ろう。

とは言うものの、そんなかっこいいことではなく、
ただ少し自信がなかったのだ。
あの2人のうちのかわいい方とどうにかなると言うことは
ほぼほぼ無理だろうと思ったのだ。

私が受け持つにしてはちょっとレベルが高すぎると思ったのだ。

それから数日が経った。
私はシャブとあの女の子の動向が気になっていた。
かわいい方の子にシャブとどうなっているかを
メールで聞いてみることにした。

メールではなんだか歯切れの悪い言い方をしていて、
なんだか流れで私とその子が2人で食事に行くことになった。

「シャブくんのことで相談があるんだ。」とのことだった。
私はだいたい想像はついていた。
むしろその話こそメールでいいんじゃないか?
言っちゃえよ、あいつつまんねぇ!!!って言いたいはずだ。

それはメールでいい。
逆にわざわざ2人で会ってシャブの話はご遠慮願いたい。
が、言えるはずもなく食事の日を迎えた。

案の定そういうことだった。
その子なりにオブラートに包んではいたが、
結局は「つまんねぇ。」ということだった。

そういう話も含めて、私とその子はメールのやりとりが頻繁になった。
そしてまたまた流れで付き合うようになった。

最悪な人間である。
完全にシャブを当て馬にした。
先輩とは言え、男として最低である。
こういうことは恋愛面に限らずなんやかんやあった。

私の非情な面や、非常識な部分、卑怯な部分、そういうものが重なって
現在は当時の友達や後輩は誰一人まわりに残っていない。
もちろん友達もおらず、ひとりぼっちである。

しかし、私は何が悪かったのかわからない。
私はただそのほうが「おもしろい」と思っていたからで
今もそう思っている。

だから彼らが私から離れていった理由がわからない。

ある日久しぶりに4人、
あのゲーセンで出会った4人で食事をすることになった。
前までは女の子同士が並んで座り、私とシャブが隣同士だったが、
私とその子はもうすでにつがいである。
友達の女の子も知っている。知らないのはシャブだけ。
しらっこい顔をして私が彼女の隣に座る。
一瞬間があって、シャブが「?」みたいな顔をするが
無視してさっさとメニューを開く。

普段ほとんど喋らないシャブが今日はさらに喋らない。

たぶん小さな頃から学習してきた言葉を今だけ思い出せないのだと思う。

そりゃそうだ。
彼にとっては意味のわからないことになっていたからだろう。
私はゆっくりと彼に付き合っていることを伝えた。
どんな顔をするかシャブの方をジッと見ていたら、
驚くべきことに、シャブはうっすら透明になっていった。

いや、これは形容しているわけでもなく、
本当に文字通り透明になっていった。
幽霊みたいにスゥーー・・・っと。
ちゃんと言えば、店の壁と同化していったのだ。

その時、シャブの着ていたシャツの柄が
店の壁紙とそっくりだなとは思っていたが、
よく見るとほぼ同じだった。
もうほとんど店の壁に目がついていて、キョロキョロしているようだった。


もうおかしくておかしくて。
一応「ごめんね。なかなか言い出せなくて。」みたいに
神妙な顔はしていないといけないから一生懸命笑いをこらえていた。
この壁と同化するシャブをみんなに見て欲しかった。

なんども言うが私は性格が悪いと思う。歪んでいるのかもしれない。
みんなが離れて言って当たり前で正解だと思う。最低の人間だ。

でも、これはおもしろかった。
「人間ってこうなるのねぇ。」って。
単純にシャブのシャツと店の壁紙がほぼ同じと言うところも
そこそこ効いているし、そのシャツは一体どこで買ったんだよ、
とツッコミが浮かんで笑いが倍増した。

シャブの話が多めになってしまったが、
私はやっとここで童貞を卒業した。
一般の男性とは遅い卒業となった。
以前居候していた彼女とはそんなことにはならなかった。

情けない話だが、前回の彼女とはそういう雰囲気になりはしたのだが
私がどうすればいいのかわからなくてできなかったからである。

バイト先で師に卒業した旨を伝えると、「どうやった?」と聞かれたので
「なんとも言えないっすね。」と答えると
ニンマリと笑って「宇宙やろ?」師はニンマリと笑った。

「もぉコスモです。」と答えた。

ちょっとくだらない話はここまで。

やはり人生っていうのは山あり谷あり。いい時があれば悪いときがある。

ここから、さらに暗黒時代へと突入する。

今までがまだまだ甘かった、と感じるくらいに。

実家の引越しも終わり、
新しいマンションとかわいい彼女がいて、憧れの師がいる。
順風満帆な気がしていた。

しかし暗い影は着実に侵食していた。

ホームレスへの道へと順調に進んでいた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?