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【実践】師の教えを実践!成功!?

ほとんど行っていなかった大学で唯一単位が取れていた心理学。
そこそこ興味があったので授業には出ていた。

私は自分の道を決めた時から、心理学系の本を漁るように読んだ。
学問レベルのものから根拠のない心理テストのようなもの、
人格診断など読みまくった。
そして「笑い」との関連性を探っていった。

すると不思議なことに、私が今までやってきたことは
さほど間違いではないことがわかった。
人の注意を引いたり、ミスディレクションのような技術は
ネタの中でも、ネタを聞いてもらえるような空気を作るために
自然と身につけていた。

そして「笑い」に欠かせない「語彙力」。
これも、ネタを作るために普段から意識はしていたが、
大学受験の小論文対策で格段に増えていた。
小論文対策では語彙力だけではなく、論理的思考が身についていた。

私はすでに「笑い」という一つのカテゴリーの中に
別のカテゴリーを隠し持っていた。


私は当時、大きな悩みがあった。
その時私はまっしろな童貞であり、自分を好きになる人なんていないと
思い込んでいた。
そもそも女性をデートに誘うことさえできなかった。

確かに女友達は幾人かいたが、2人で会ったり、
デートのようなものではなく、
ファミレスなどでグループでいる場合が多かった。
私はそこで、恋愛の云々より
ネタのウケ具合ばかりを気にしていなければならなかった。

「私なんかに誘われても迷惑だ。」

そう思い込んでいた。

師はそのセリフを聞いた時、当たり前のことを言った。

「おまえは嫌いな人と飯、悔いに行くのか。」

私は「行きませんね。」と答える。

「でしょ?普通嫌いな人とは飯いかない。
とりあえずご飯に誘って、いいよって言ってくれたらたぶんそれは
その女の子の中でおまえはナシじゃないんだよ。」

なんとまぁ当たり前のことか。
それができたら苦労はせんのだよ、と思った。

しかし、当たり前なのは当たり前なのである。
誘ってみて断られたらそれはそれでもういろいろ悩まずに済む。
OKだったらそれからどう転ぶかであって。

そして急展開が起こる。
男友達と2人でファーストフードでハンバーガーを食べていた。
男友達は何かずっと喋ってはいるが、私はほとんど聞いていなかった。

なぜなら、その男友達の背中の後ろの席に、
1人で本を読んでいる女の子がいた。

私は、この席についた時から気になっていた。
「連れがいるのかな?」
店内を何となく探すがそれらしき人はいない。
「待ち合わせかな?」
私が席についてからすでに1時間は経っている。
その前からこの女の子はその席にいる。

私は観察していた。
待ち合わせで相手が遅れてるにしても、
時間を気にしたり携帯で連絡するそぶりはない。

私は確信した。

この子は1人だ!
私は師からナンパの際のテクニックを教わっていた。
師はナンパの際は人数に気をつけろ、
その中で、女の子が1人の場合、成功の可能性は高い。
そう教わっていた。

私は男友達に「トイレ行ってくる」と伝えゆっくりと歩く。
何の不思議もない。
トイレまでの動線にその子の席はある。

そして、彼女の席へどんどん近づく。
そして席を横切る瞬間、私の脳は弾けた。

「あ、おれオレンジやって言われたことある。」

女の子も唖然としている。

急に出たこのセリフは、私が席を横切る瞬間に、
本のタイトルが見えた。
はっきりとは覚えていないが、テレビで有名な占い師の
「オーラ診断」の本だった。

私は一度、飲み屋でオーラが見える、という人にあったことがある。
その時、「あなたのオーラの色はねぇ、オレンジよぉ。」
と言われたことがあった。

実際その人がオーラが見えていたとは思えない。
ヘベレケに酔っ払っていたし、
何よりそのオレンジという色さえも
おそらく私がカシスオレンジを飲んでいたから
単純にオレンジと出ただけだろう。

しかしどうでもよかった。
オーラの色がオレンジである、というきっかけが発生すれば良い。

「あ、おれオレンジやって言われたことある。」
と言われて唖然としている女の子に、
私は「自分何色なん?」と本を指しながら言う。

「赤。」
「っぽいよね。」
そういうと私は一旦トイレへ。

席に戻る時、また話しかけてみる。

「ねぇ。おれらが来る前からいたよね?」

そういうと、彼女はここで本を読むのが好きなのだという。
ショッピングセンターのフードコート、
ワイワイガヤガヤしてるところでよく読むねぇ、
って思ったけど、何となく気持ちはわかった。

生活音や人の声などがあった方が集中できるという人は結構いて、
そういう人間も何人か知っていた。

そして、満を持して彼女をご飯に誘った。
意外や意外、OKの返事。

「師匠、やったった・・・。」

とりあえず2人で近くのファミレスへ移動しいろいろ話をした。

実は大学生であること、休学中であること、
運動部の特待で市外からこの街に来たこと。
そこそこ笑って話をして、その日はそれで別れた。
ちゃんと連絡先も交換した。

ちなみにではあるが、フードコートにいた男友達は置き去りにした。
最低だと言われてもいい。別にいい。
たぶん私の立場であったなら、同じことをしただろう。
だってその男友達は、死ぬほどおもしろくないヤツだったからである。

幾日か経って、本格的なデートをすることになった。
まぁデートというか普通に食事をするだけなのだが。

その時そこそこびっくりすることを聞かされる。

レストランに着き、またざっくばらんに話をする。
ある程度場が温まったなってぐらいの時、彼女が私に尋ねた。

「ねぇ。この前会った時と何か違うと思わない?」
これはマズイ。

師から「女の子の変化には注意しろ。」と言われていた。
会ってからこれまでの時間気づかなかったのは減点対象か!?
これは追試か?ここで正解を導き出さないと!!!

高校の担任が頭をよぎる。

正解とは?変化とは?

髪?いや、違う。

ネイルは・・・してない。

私はわからなかった。

ただ「この前よりいい服を着ている。」ということぐらい。
でもこれはけっこう言うのは気が引ける。
さもこの前会った時着てた服が粗末な服だったと言ってるようなものだ。

私はやんわり正直に答えた。
「いやぁ。なんか変わった?」
ムッとされるのではないかと思ったが、以外と彼女は爛々としていた。


「今日は会話スムーズじゃない?」

私は何のことやらさっぱりだった。
爛々とした彼女を前に、私は前会ったときのことを考えていた。
会話、スムーズ・・・。

「いやぁぁぁ。わからなぁぁぁい。。。」

私が苦笑いで答えると、
さっきまでの爛々とした表情は一気に真剣な顔になった。

こっわ。
めっちゃ怖い。

「あのね、この前会ったとき私何回も聞き返してたでしょ?」
「“なに?” とか “ん?” とか聞き返すの多くなかった?」

そう言えば。
聞き返していたのが多いかどうかはわからないが、気にはなっていた。
それは彼女の方にではなく、「あれ?おれ今日滑舌悪い??」
と自分自身の問題として捉えていた。

彼女はセミロングの髪を耳にかけた。


「私ね、実は耳が聞こえづらいんだ。」


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