0012

「四十年前の今日さ」
酒場の灯りはすべて落ちて、カウンターの向こうには一層濃い闇が人の形貌に積まれているだけだった。
「アンドレアスは、俺の親友は消えちまった。徐々に人が減り町は活気を失った」
主人の像が濃くなり薄くなり歪んでいく。
「あの爺何だったんだ。なぁ、お前わかるか」
形の無い喧騒が、闇の泡のようにサンティエスの回りに漂っていた。
「あの爺が町を殺したのさ、あの妙な力でな」
「あんたも見たのか、それ」
主人は溜め息を一つついて、「さぁ、悪いが店仕舞いだ」そう言うや、煤が舞うように一瞬で崩れて消えた。
サンティエスは酒場を後にした。
町の頭上には黒くもあり紅くもあり蒼くもある、時を埋没させた空が拡がっていた。酒場と同じように、人影が無いのに呼吸や跫ですべての通りが満たされているような、奇妙なざわめきに包まれていた。
あの爺が町を殺した、主人の声がサンティエスに蘇る。
だが彼にはそうは思えなかった。

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