0033

彼女が想い出せるのはハラバナルが絶命する場面だった。ムニダスの宿屋で彼を木箱に詰めた。いや、彼の方から入っていって、そして箱の中で死んだ。
どうやって殺したのかは想い出せても、その理由がどうしてもわからなかった。
「愛していた」彼女は道化師に問いかける。「それは本当かしら」
「いいさ、どうせ時間は厭になるほどある」道化師はわざとらしく顎を掻いた。
「あたし達一緒に暮らしてたわ」
「へぇ」
「皆羨んでた」
「そうかい」
「サナリア渓谷にも連れて行ってくれた」
「それはそれは」
「一緒に町を出ようって」
「それで」
「それで」
「子供ができたんだろ」
「子供」イベルタは道化師を呆けた眼で見ていた。
「そうなんだろ、あれ、違うの」
彼を箱に詰めて、彼がいる町を突き止めて、彼の噂を耳にして。彼女は丹念に糸を手繰り寄せ、この家を出て行った時に見せた彼のあの笑顔に辿り着いた。
その時、彼女の傍の小さなベッドに赤ん坊がいた。

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