0038

動かない老人を見下ろしながら、もっと尋ねるべきことが有ったと後悔した。
ハラバナルに会ったことの有るハラバナルがいて、イベルタが幾人ものハラバナルを殺していることを知っているハラバナルがいる。
確たる決心も覚悟も無く探し殺めて来た彼女は、この状況を正確に理解できずにいた。
自分が探しているハラバナルが果たして存在しているのかいないのかも、もはやわからないことだった。あんなに簡単に腕が外れるのだからまた簡単に生えてくることだってあり得るだろう。
いやそれよりも、とイベルタは想った。ハラバナルを喪って、とうとう狂ってしまったのではないか、と。
「狂ってはいるだろうがね」道化師はそう肩を竦めて嗤った。
「あんたはあたしの話信じられるの」
「そうだねぇ」道化師は眼をわざとらしく中空に彷徨わせ「そういうこともあるだろうさ」
「本当かい」イベルタは虚脱して息を漏らしたように応えた。
「世の中にはあんたの知らないこともあるさ」

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