0036

彼女は二人目のハラバナルにニパクアの実を呑ませた。そして一人目の彼を殺してから初めて山の洞穴に立ち入ったが、死体は無かった。
それから暇を見ては一人目を探し歩いた。方々の町で面白いようにハラバナルがいた。だが右腕が着いているか、或いは体のどこか他の部分が無いかどちらかだった。
その誰に尋ねても、自分はハラバナルだと答えた。不思議と年老いたハラバナルやまだ幼さの残るハラバナルもいたが、不思議と彼女にはそれがハラバナルだとすぐにわかるのだった。
「あんたの右腕を預かってんだよ」
彼らは驚かず、ただ黙って彼女を見返すだけだった。
彼女はその全員を殺した。
切りが無かった。何故こうも同じ人間が何人もいるのかなどといった根本的な問いもすでに虚しかった。
ただ一人目のハラバナルが帰ってきてくれて、彼の空白となっている肩に右腕を着けてやることだけを夢想しているのに、出遭うのはどれも別人であり、なまじ姿が似ているから余計に憎々しかった。

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