0043

彼が気づいた時、眼の前に広がっていたのは果てない荒野だった。時折吹く風に何かが舞っているのが見えたが、それが何なのかわからない。
両の掌を見ると左手に薬指と小指が無い。最近無くした生々しさはなく、ずっと昔に無くしたのか、もとから無いかだったが、それも彼にはわからないのだった。
足許を見ると、片掌で何とか握れるぐらいの尖った石が在った。言い換えればそれしか無かった。彼はその石で地面を抉って回った。
するうち、風に舞っていた何かが彼の頬に当たった。掴んで見ると何かの種のようだった。大風が来てその種が大量に運ばれてきた。彼はそれを抉った土の中に埋めた。
雨の日があり、陽の昇らない日があった。空気の凍った日もあり、遠くで何かの音が聞こえたような気がした日もあった。
彼は石で土を抉り種のようなものを埋めた。土からは様々な虫共が顔を覗かせた。
最初に掘り返した辺りから小さな芽が出始めた。
荒野の一欠片で植物共が若々しく立ち上がった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?