0039
イベルタは彼女に確かに遺されたものが有ることに気づいた。ハラバナルの右腕だった。
それに気づいた彼女は、アスタスにいた青年のハラバナルを始末したのを最後に彼を探し回るのは止した。アスタスのハラバナルは縄で縛り身動きできないよう四肢の腱を切って木箱に押し込み、沼に沈めた。
そうすることでもうハラバナルが殖えないという保証はどこにも無かったが、そうせずにおれなかった。
それからイベルタは彼の遺した右腕を一層大切にするようになった。毛布を幾重にも敷いた籠に入れ、陽の好い時には抱えて町内を出歩いた。
それに応えるように、右腕は時折身震いしてみせた。
町の住人も男に逃げられた憐れな女を労ってか、ハラバナルの右腕を抱くイベルタを気遣う風だった。
「元気そうでよかった」
「いい顔色してるわ」
「嬉しそうだね」
皆彼女に話しかけ手を握り肩を擦り、食べ物や飲み物をくれた。ただ、右腕を連れた彼女を見た子供達は怯え泣き、逃げていった。
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