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彼はそれに一瞥呉れただけで、また前を向いて土を抉り種を埋めることを続けた。遠くまで来ても眼の前の景色は変わらなかった。浅い青か灰色の空と腐って乾いたような黄色い大地。石で剥くと肉のように赤黒い層が現われることもあった。ゆっくり掌を押し当てると、微かに湿った温もりが在った。
彼が顧みぬ間に、陽と雨が草木を繁らせていった。そこに小虫が湧き、それを喰う虫が飛んで来、それを狙う鳥も舞い降りた。
飛来した虫や鳥共はこの荒野には無かった種を運んで来た。背の高い樹木に育つものもあり、虫や鳥共の棲処になった。
土を削り続ける彼の背後で、生き物共が蠢き始めた。
土中の草木や虫や獣のせいか、荒野に幾許かの水が湧き出た。
どこからか長い旅をして獣共が姿を現わした。小さな獣、中くらいの獣、それらを喰らう大きな獣。獣共は仲間を増やし家族をつくり敵を駆逐した。空いた席に別の獣がまたやって来た。死骸はそこに沈んで土壌を育み、再び草木を繁らせた。
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