0037

「なんとまぁ、すげぇじゃねぇか」道化師は近くに在った椅子にどっかと腰掛けて拍手した。「ただの陽気屋だって聞いてたからさ」
「聞いてた、誰から」
「あんたのお父様とお母様だよ」
「知ってるの、父さんと母さんを」
「知ってるも何も、その二人に頼まれて来たのさ」
イベルタはかつて尋ねたことが有った。トルタスにいた老人のハラバナルを水に沈めた時だ。
「三十歳ぐらいの右腕の無いあんたを知らない」
「知らんね」彼の嘲りに、頭部を水没させる手に力が入る。
「あたしはあんた達を何人も殺してきたのよ」
彼は喘ぎながら答えた。「ああ、そうらしいな」
「ほかのあんたに会ったことあるの」
「あるさ」
「それで聞いたの」
「そうじゃないがね」
「だったら」
「とにかくお前さんが殺して回ってるのは承知してるさ」彼は前歯六本無い口許を歪ませて「お似合いだ」
彼女の感情は一瞬にして消え、それから一時間は彼の顔を水に浸したままだった。

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