0034
ベッドで蠢くそれ。それも彼との。「わからない」
「わからない」
「ええ」
「それはつまり」道化師は舌舐りした。彼女の見間違いか、鮮やかな黄緑色の舌だった。「ガキがいたのかどうかがわからないのかい」
彼女は何か言い返そうとしたが、それが何だったのか自分でも忘れてしまった。
「ベッドに何が寝てた」
「わからない」
「動いてたのか」
「わからない」
「声はあげてたか」
「わからない」
「男をどうやって殺した」
生まれたばかりの赤ん坊が泣いていて、そこに彼が入ってきた。先ほど取り返したと思ったその記憶すら、道化師の言葉で容易にぐらついた。
「違う」
「違うとは」
彼女はハラバナルを箱に閉じ込めた、その記憶は確かに有った。
「彼を殺したのはその前だった」
「その前だって」
「彼は私の部屋に来た。でも殺したのはその前」
道化師は馬鹿笑いをした。「死んでからでも狂うんだな」
イベルタの死んだ眼は死んでから最も生気を帯びていた。
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