0041
「あんたが見てたのはこいつらだろ。愛する娘を見守ってたんだな」
「そうなの」
やはり何も応えない。死者同士でも言葉が通じるわけでもないのかも知れなかった。
「半死半生というやつさ。この部屋にいたの生きてる連中じゃなく、死人が二人だった。それをあんたが息絶え々々で見てたんだ」
そう言われればイベルタもそんな気がしてきた。ずっと見守ってくれるとしたら両親かハラバナルぐらいしか思いつかなかった。そして彼がここにいたはずは無いのだった。
「俺がここに来たのもこいつらに頼まれたからだって言ったろ。一人娘を導いてやってほしい、ってな」
「そうなの」
イベルタの両親はやはり何も答えなかった。が、煙のようにゆらりと動き出し彼女を挟むように立った。
「さて、行くかね」
「行くってどこへ」
その問いに道化師が応える代わりに父親が彼女の左手を、母親が右手をそれぞれ強く握った。
次の瞬間部屋は消え失せ、彼らは暗闇に浮いていた。
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