0025

窓の外にアンドレアスが駈けてくるのが姿が見えた。
サンタグリータには姉やハラバナルとの日々と、町の様相が一変したように感じた。町も住人も、そして太陽や風すらも、すべてが真新しい。過去との縁を切った心地で、だから過去を振り返ることもできた。
「おかえり」
「ただいま、母さん」
彼は出逢った時からサンタグリータをそう呼んだ。彼女も驚くほど抵抗無く受け入れられた。むしろそれが当たり前と感じた。
「どう、うまくやれた」
「うん、チチェロの奴が真面目にやらないけど、まぁ大丈夫だよ」
アンドレアスは空き家になった小屋を利用して、町の子供達に勉強を教えていた。
「今日はどんなことを教えてあげたの」
「サバラスの遺跡の歴史さ。六百年前にカパラ岩で作られた日時計なんだ」
彼の言うことが、学の無いサンタグリータにはわからなかった。職人が多いこの町では誰も似たり寄ったりだろう。
だが話の真贋別にして、人が聴き入ってしまう魅力が彼には有った。

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