故障検出の話

本稿では概要について説明します。具体的な故障検出方法については、また別記事にて解説します。


故障検知とは

故障または異常とは、運転中のシステムの特性が予期せざる理由によって変化することです。システムの特性が変化するとシステムの出力(観測値) も変化するため、出力を常時監視することによって故障を検知することができます。つまり故障検知とは正常時と故障時の観測値の差違に基づいています。しかし故障箇所や故障原因、故障のメカニズムによって種々の故障モードがあるため、観測値の中から故障の兆候を抽出することは必ずしも容易ではありません。



故障のモデル化

故障検知にあたっての第一の問題は、故障をどうモデル化するかです。一般的な工学系のシステム(ダイナミカルシステム)において、故障を記述するには次の方法があります。

①状態・出力方程式に現れるバイアス項
②システム雑音の平均値 ・ 分散の突変
③システム行列のパラメータ変化
④入力の特性の変動
⑤システムの構造次数の変化



故障検知以降の流れ

一般的な流れは次の通りです。まず観測値に基づいて異常を検出し、次いで故障場所と故障の態様を決定し、制御則やフィルタゲインの調整、予備機への切換えなどによって修復処置を行います。まとめると故障検知システムは、次の3つの機能を具備していなければなりません。

【①故障検出】
故障検出はいわゆる故障発生のアラーム機能で、異常or正常の二者択一問題です。そのため様々な統計的検定法を適用できます。

【②故障診断】
故障診断は故障源 (場所)を推定する識別問題です。このためには精査を必要とし、システムの特性、故障のモード等に応じて種々の方法があります。

【③故障予後】
故障予後は故障の拡大を予測するもので、システムの目的に応じて高度な処理が要求されます。当然ながら機能を増せばアルゴリズムはそれだけ複雑になり、装置化が困難になります。計算機の構造と能力に適合したアルゴリズムが開発されねばなりません。オンボードの計算機の能力を超える複雑なアルゴリズムは、いかに高性能であっても意味がありません。




故障検知の性能

故障検知システムは目的によっても異なりますが、特に次の性質が重要です。

①検知可能な故障モード
②誤検知 (false alarm)
③不検知(miss alarm) の確率
④検知の速応性 (検出の時間遅れ)



故障モード

故障モードとは、例えば、断線、短絡、折損、摩耗など、故障そのものではなく故障をもたらす不具合事象の分類です。

全く用途も構造も異なる機器でも、電気回路を内蔵している限り、例えば「断線」が生じる可能際があります。機器1つ1つの起こりうる故障全てを考慮することは不可能ですが、故障を引き起こす不具合「故障モード」は類型的に分類できます。

また、新しい製品がどう故障しやすいか直接予想することは困難ですが「断線などの故障モードが何故起こるか、どれくらい起こりやすいか」はある程度予想できます。このように故障モードから故障にいたるメカニズムを手繰っていくことで「故障の質的予想を系統的に統一的に行うことが可能になる」これが故障モードを考える意味です。


大規模システムの異常検知

一般にシステムは適当な状態量の計測を基に構成されているため、これを監視することによって故障を検知しようとする試みが多くなされています。しかし大規模なシステムとなると、故障検知のための信号計測を別個に考えることが必要です。

さらに実際には、システムの運転のために検出されている信号ばかりでなく、むしろシステムを構成している各要素のハードな部分の異常を検出するために、まったく別個な量を計測することも必要です。例えば原子炉のように特に安全性が問題となるシステム装置では、実際の運転に必要な装置に比べて勝るとも劣らないほど多くの監視装置を設置します。


故障検知のポイント

検知において最も基本的なことは、観測された信号の中に必要な情報が含まれており、しかもそれが感度高く検出されることです。

ただし、観測信号の中に異常に関する情報がどのような形で埋もれているかによってその処理方法は異なるため、信号検出器の配置や信号処理は、できる限り信号発生源の物理的性質やセンサの特性を考慮して行われなければなりません。



検出の本質的な違い

故障検知時の「信号検出」と、システム運用時の「信号検出」は異なる側面を持ちます。

例として、あるプラント中の流体の温度を想定してみます。このような流体は一般に、全体が均一の温度をもつことはなく、多少温度変化のある小さな固まりの流れになっています。したがってこの流体中に温度検出器を挿入して測定すると、この流れの固まりの温度の違いが微小に変動する「温度ゆらぎ」として検出されます。このような温度ゆらぎは、制御の対象とはならないのが普通であり、システム運用の立場からは、このゆらぎを除いた平均的な値をとらえることのほうが大切です。一方で、故障検知の場合では、この温度ゆらぎの変化からシステムの異常を検知します。これはシステムのいわゆる確定論的な立場での異常検知です。




検出感度について

更なる例として、より感度の高い検出器を用いて微小な温度ゆらぎ信号を検出したとします。これは前述の場合と異なり、正常定常運転時においてもランダムな変動をする信号として観測されます。このゆらぎ信号はシステムの構造や環境条件に基づいて発生するものであるため、システムの異常や環境条件の変化がゆらぎ信号の変化となって現れてくるはずです。このようなゆらぎ信号に基づく異常検知は次の特徴を持ちます。

①システムの信号についてより詳細な観測を行っているため、情報論的な立場から述べてもより多い情報量を取得していることになる。

②平均操作やフィルタリングによって確定論的な信号変化も捉えられるため、より一般化された計測となる。

③高い周波数領域の信号まで取り扱っているため、システムの変動や異常が迅速にとらえられる可能性がある。

このゆらぎ信号は、ランダムな時間的変化をする確率過程とみなされるため、統計論の故障検知手法が適用できます。定値制御系のようなプラントシステムに対してさえも、このようなゆらぎ信号を検出することができれば、観測値は一定値ではなくランダムに変動する信号として観測されます。


参考文献

中溝高好, 秋月影雄, 添田喬、システムの統計的故障検知法、計測と制御 18 (6), 471-480, 1979

鈴木英明, 内山宏樹, 湯田晋也、データマイニングによる異常検知技術、オペレーションズ・リサーチ 経営の科学 57 (9), 506-511, 2012

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/異常検知

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?