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音響解析の話2

音響解析の話1の続きです。

音響解析の理論

音響の支配方程式は「波動方程式」と「空気の体積弾性係数」から構成されます。


【波動方程式】
波動方程式は音波、水面の波紋、電磁波など様々な媒質の振動現象を記述する基本方程式で、主に流体力学、弾性体力学の分野に該当します。

波動方程式(ρ:空気密度、p:音圧、u:空気分子の変位、β:空気の弾性率)





【空気の体積弾性係数】
弾性とは、外力を加えると変形し外力を除くと元の形に戻る性質です。つまり体積弾性係数とは物質の圧縮性を表す量で、圧力pと変形量▽uで表されます。値が大きいほど変形に大きな力が必要となります。

体積弾性係数(ρ:空気密度、p:音圧、u:空気分子の変位、β:空気の弾性率





【音響の支配方程式】

上記の2式から導かれます。この方程式は3次元空間において時間とともに音圧が従う振る舞いを表しています。

音響の支配方程式(ρ:空気密度、p:音圧、u:空気分子の変位、β:空気の弾性率


この音響の支配方程式を有限要素モデルヘ離散化して、さらに減衰と音響への外力を追加して下の式のように表現します。有限要素法を利用した構造解析では下記運動方程式を利用して構造音響連成問題を解きます。

有限要素モデル(MF:音響質量マトリクス、CF:音響減衰マトリクス、KF:音響剛性マトリクス、PF:音響への外力ベクトル)



※ジェットエンジンの騒音など空気の流れによって生じる圧力変動が音源である現象を解析するには、流体騒音の支配方程式を考える必要があります。






音響解析の境界条件


音響インピーダンス境界も開放境界も音波を吸収する事を想定した境界条件ですが、使用する場面に違いがあります。

開放境界は音波が無限遠に向かって広がっていく場合に使用し、音波が1方向に進むような場合は音響インピーダンス境界を使います。


【開放境界】
開放境界では、音圧が音源からの距離Rに反比例すると仮定します(=音圧が1/Rで減衰していく)。ただし音源近くなると複雑になり1/R^2などの高次の項も含まれます。

【音響インピーダンス境界】
音響インピーダンスとは音波の通りにくさです。
音圧Pを体積速度Svで割った値として定義されます。目安として空気と水の値を示しますが、桁違いに異なることがわかります。

・空気の場合、410 [N・s/m3]
・水の場合、1.5×10^6[N・s/m3]

波は密度が異なる材料に到達すると反射する性質があります。この現象は音響分野では音響インピーダンスが異なるために反射が生じると解釈されています。

【多孔質の場合】
スポンジのように内側に隙間や穴がある多孔質弾性材料では、音波はその隙間内に満たされた空気を伝って反対側へ通過します。その際、音の大きさは小さくなります。

この特性を表現できる理論の一つがBiotの理論です。この理論を使って多孔質弾性材料の特性を表現します。



【開口端条件】
音波が極端に体積の異なる空間の境界に到達したとき、音波(空気の塊)の体積が急激に変化します。このような急激な体積変化に伴って、境界で新たな音波が生まれ、その波がそれまでの進行方向と、その逆方向の両方に伝わり始めます。この境界を開口端と呼びます。例えば、管楽器の先端ではこの状態になります。

開口端の気柱共鳴



音響解析の種類

音響解析は2種類あります。
・幾何音響理論
・波動音響理論



【幾何音響理論】
音の波動性を無視してそのエネルギーの発生・伝搬・拡散・消散を幾何学的に扱う手法です。

音をエネルギー的に扱うため計算が容易ですが、波動性を考慮しないため波動現象が現れやすい低音域では誤差が生じます。


【波動音響理論】
室内の周壁の音響インピーダンスを境界条件として、波動方程式を解く手法です。

音を音波として扱い波動方程式から計算するため正確な解析が可能です。ただし高音域では計算量が膨大になり時間がかかります。

以上の特徴を理解して解析対象に最適な解析手法を選択することが必要です。



参考文献

岡本則子、大鶴徹、富来礼次、藤野清次、有限要素法による室内音場解析におけるCOCG法の収束性


坂本慎、有限差分法による音場の数値解析、騒音制御: Vol.31, No.4 (2007) pp.263-270


横田考俊、坂本慎、橘秀樹、差分法による室内音場の解析、騒音制御: Vol.31, No.4 (2007) pp.299-304


漆戸幸雄、綿谷重規、幾何音響シミュレーションによる室内音場の視覚化、可視化情報学会誌 11 (Supplement2), 93-96, 1991


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