silver story #35

#35
真っ白い世界に目が慣れてきて、その祠の輪郭がはっきりしてきた。
さっきまで歩いてきた両側の生い茂った木々とは打って変わって、そこはちょっとした広場になっていた。

見上げるほどの黒い物体は、広場の真ん中にそびえ立っていた。それを中心にして、四方向の隅には、篝火が焚かれていて実は、白ではなくぼわーっとオレンジ色になっていた。どうして白く眩しく見えたのだろうか?

「ダイジョブデスカ?」
ふらふらする私をユキさんが心配して覗き込み、肩を貸す形で抱えるようにして歩き出し始めた。

「もうすぐ始まります。どんなことが起きるか私も楽しみです。」
お母様は、私の手をぎゅっと握って言った。

「ユキさんありがとうございました。大丈夫ですよ。もう一人で立てますよ。」

ユキさんは、にっこり微笑んで私からゆっくり離れて行った。

さあ、いよいよだ。
私は。カメラをしっかり握りしめて目を閉じて頭を空っぽにするように努めた。
全ての神経が、レンズを通して見ることになるこの目にいくように。
いつも始める私なりの儀式。

今夜ばかりは、なかなか集中できないので私は、カメラを服の袖を伸ばしてやたら磨いていた。

茂みの方からキンキンという鐘の音と地響きのような低い音がしてきた。

いよいよ始まるのだ。
二人を見ると、オレンジ色の輝きで目がキラキラしていた。
唇をギュッと噛み締めて、いつもとはまったく違う険しい顔で広場の中央を見つめていた。

それぞれが、なんらかの覚悟を持ってその時を待っていた。
何かに見られている、何かに囲まれている。音が、近づくにつれてだんだんとその感じが強くなってきた。

一段と強い視線を感じたその先は、見上げた祠からだった。
上の方は真っ黒で先がどんな型をしているかわからないが、空いっぱいの星屑をその一本の太い祠が支えているようだった。

#小説 #バリ

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