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silver story #40

街の雑踏。私の居たところ。
ただそれは、四角いカメラのファインダーの中、ファインダー越しに見ていた街の様子だった。

振りかえっても、振りかえっても四角に切り取られた様にしか見えず、時々ただのオレンジに変わったりしてシャッターを切っているような映像になった。
車のクラクション、信号の音、話し声、雑踏の中からかすかに身に覚えのある音が聞こえてきた。その音に集中すると、どこかで聞いた音、音色。あ!ギターの音。あの歌声!

人混みの間からそこだけ銀色に光る透明なドーム型の中に彼は、いた。周りは綺麗なオレンジ色、そう、夕焼けの一番綺麗な色だった。
初めて彼と会ったあの時に見えたのと同じ色だった。

近づこうと一歩足を出した瞬間、ドンと背中を強く叩かれて目の前が変わった。
全く違うオレンジが目の前にあった。登る炎のゆらゆらと、飛び散る火の粉の舞う祠の前で、白いサリナちゃんが勢いよく、そしてしなやかに舞っていた。

村長さんの声の調べが変わって、一定のリズムからこの辺りの祈りの言葉と思われる語りが始まり、男たちの唸るような声は治まっていった。

サリナちゃんは、もう別人のような顔つきになっていて、もしかしたら、すでに別のモノがサリナちゃんの中に入り込んであんな舞い方をしていたのかもしれない。さっきお母様が言っていた何人かの選ばれた女の子が集まっていた始まりの儀式の時からそうなっていたのかもしれない。

ソレが現れるための器として女の子たちが集められソレに見出され、受け入れることが出来た子が今あの場所にいるのかもしれない。サリナちゃんは、器なのかもしれない。

後でお母様に聞いてみよう。

それにしても、さっき見えたアレは何だったのだろう。バリに来る前に日本で出会った人、何回かしか会ったことのない人なのにあの時間は、私にとってどんな意味を持っているのだろう。

ふと横のお母様を見た。オレンジ色に輝いているお母様の瞳がユラユラしていた。涙で潤んでいたのかもしれない。何かが見えていたのかもしれない。
オレンジ色のお母様は静かに立っていた。
ここに来る前に、二人で見ていたあの雄大なバリの山々のように慈悲に溢れそして強い覚悟を持っているように静かに立っていた。

「お母様。」思わず声をかけた。「あなたは、大丈夫?」
「はい。」
それだけだったが、お互いに分かり合えていた。
お母様と私は、闇と光に包まれていた。松明の灯りに照らされた顔半分が闇と光を作り出していた。

#小説 #バリ島

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