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silver story#41[終宴]

#41
村長さんの祈りが終りを迎えようとしていたので私は、残りの時間撮れるだけのシャッターを押し続けた。今度は、何の支障もなく思う存分撮ることができた。

男たちの中には、口からヨダレを垂らして一心不乱に祈りを捧げる者もいた。白目をむいて倒れている者もいた。皆が皆、何かしらの影響を受けているようだった。
松明や組み上げられた木々を燃やし高く昇る炎の灯りで全ての男たちは、一つに見えてまるで紅い塊のようだった。
座った男たちは両手を上げ、前に倒れては、体を元に戻しまたあの低い唸り声をはじめて左右に体を揺らしていた。

体操を終えた後の深呼吸のように高揚した自分の心と体を整えているようだった。村長さんの号令が高らかに響くと男たちは、一斉に立ち上がり来た方向を向いて歩き出した。男たちが進むにつれて祠のあたりの松明の明かりの下に倒れているサリナちゃんの白い服が見えてきた。

私は、思わずサリナちゃんの元へ駆け寄ろうとしたが、お母様から腕をぐっと掴まれて止められた。首を横に振りながら「大丈夫です。これからサリナは、戻る儀式を受けなければいけないから、また連れて行かれるのよ。」
お母様の言う通り何人かの男たちが、板の上にサリナちゃんを乗せて神輿のように担いで祠の方へつれて行った。サリナちゃんはグッタリしていたが大丈夫なのだろう。ユキさんもお母様も普段通りで、むしろ笑顔でサリナちゃんを見送っていた。二人でこちらの言葉を幾つか交わして最後に残った村長さんを見ていた。村長さんは、両手を肩の高さに上げ肘から曲げて祈りの言葉を静かに始めていた。

「さ、行きましょう。あとは、家で二人を待つことになりますから。沙耶はもう一人で歩けるわよね。」
「はい。大丈夫です。本当に不思議です。 今夜のことは、いえ今までもだけど一生忘れられない時間です。」
お母様は、私の背中を優しくさすってくれた。暗くてその顔は見えなかったが、きっと優しく微笑んでくれていたと思う。
早く家に戻って今さっきあったことを、私が見えたことを語りたい。
帰り道では、ただ黙々と道を急いだ。三人は、それぞれ今夜の出来事を頭の中で反芻するかのように黙って歩いて行った。
頭上には、一段と光り輝く星の帯があちらこちらで幾重にも重なって広がっていた。
闇の中の蠢くモノたちの気配を強く感じながらお母様の家を目指して歩いて行った。

一生の宝物になるかもしれないモノがいっぱい詰まったカメラだからか、胸のカメラがいつもよりズッシリと重く感じた。その宝物を吸い取られないように、奪われないように胸のカメラをギュッと抱きしめて、ねっとりとしたバリの夜を歩いて行った。

#小説 #バリ島

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