silver story #39

silver story #39

白い衣装のサリナちゃんは、その衣装が松明のオレンジに染められてまるで火の妖精のようだった。その瞳は、黄金の琥珀の様でキラキラとしていた。空げな眼差しは、ある一点を見つめたままで、まるでそこに誰かがいるかのように、二人で見つめ合って踊っていた。
彼女には何かが見えているのかもしれない。そんな風に思えてきた。

降りそそぐ火の粉の温度とオレンジの光が体に覆いかぶさり、低いリズムの旋律が足元に忍び寄って来て、自分の正気が奪われていきそうで、必死に体の芯に力を入れていた。

「あ!忘れていた。」

わたしは、首から下げたカメラを構えてシャッターを押し始めた。
ユキさんとお母様の側を離れて、できるだけサリナちゃんに近づこうとして前へ前へ歩いて行った。

いつもの私の動作。カメラを構えたら、もうカメラのファインダー越しのソレしか感じることができなくなる。
久しぶりのこの感覚。
足が怪我で動かなかったのが嘘のように、ファインダーの中に彼女を求めて動いては、夢中でシャッターを押し続けていた。

男たちの唸るような低い声の中をサリナちゃんは、感じるままに動いていた。松明の火は、勢いよくその火柱が高く高く昇っていき、舞い落ちる火の粉が、不思議な軌道を現しながら振りまかれていた。
空気の流れに乗って自然のなせる技なのか、何かがそうしむけているのか、火の粉は妙な軌道を辿りながらだんだんと塊を造っているように見えた。

シャッターをシャカシャカシャカッと連写にした途端シャッターが切れなくなった。

「え!なんで?」

ファインダーから目を離した次の瞬間、ふさふさの鬣をした燃えるようなオレンジの何かがゆらゆらと目の前にいた。
顔中目玉なくらいギョロギョロしたソレは、こっちをジーッと見つめ急に大きな口を開けて私に飛びかかって来た。

「ごめんなさい!!」

思わず私は、叫んでぐっと身を縮めて目を閉じた。

驚いたが怖さは無かった。

静かに目を開けると見覚えのある音や湿度の空気の中にいた。オレンジ色の夕焼けに包まれていた。
懐かしい空気のオレンジ色だった。

#小説 #バリ島

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