silver story #37

#37
星たちの瞬きは、日本のそれと違って見えた。空気が澄んでいるせいだろう、ミラーボールのようにキラキラしていて一つ一つが強い光を放っていた。ミルキーウェイのような星の帯がいくつもいくつも重なっているようだった。

その時、ひとすじの一際光る星の帯が流れた。
「あ、流れ星!」
次の瞬間、あたり一面には、高く茂った草が、風に吹かれて波のように揺らめき広い海原のように広がっていて見上げると、そこにも無数の光の帯が、真っ黒な空一面に貼り付けてあった。

一瞬だったがはっきり見えた。

耳には相変わらず、神様に捧げるという一定のリズムが流れてきて、私のからだを共鳴管として中に入っていき、お腹の底を揺らして貫いていくようだった。

私は思わず、今いる場所を確かめるために隣にいたお母様の肩をつかんでしまった。
つかんだお母様の肩は、びくっと上下してその手を私の手に優しく重ねてくれた。

「沙弥、何か見えたのですね。」
私は声がでず、掴んだ手に力が入っていた。
「サヤ、ダイジョウブデスカ?」
ユキさんの声で、やっと落ち着いてきて今また目の前の祠と立ち上る炎と煙が目に飛び込んで来た。

「お母様、私…今…、あの場所に…、たぶん……お母様と光一さんのあの日の場所に居ました。お母様は…どう?…。」

息苦しわけではないがぐっと胸を押される感じがして肩で息をしていた。お母様は私の肩を撫でながら微笑んで首を横に振っていた。

見えなかったんだ。お母様は見えなかったんだ。私だけがどうして見えたんだろう。

あの場所での二人は顔は見えなかったがしあわせそうに寄り添って降り注ぐ星空を見上げていた。

お母様と光一さんは、本当に愛しあっていたんだ。一瞬だったが私には強く感じてしまった。

「沙耶。ありがとうございます。
あなたが来てくれ、本当に良かった。私の苦しかったものが、大切な愛おしいものに変わりました。
ユキも、同じでしょう。きっと。

そして彼もまた同じでしょう。私とユキを受け入れてから、イヤその前からきっと苦しんでいたはずです。
あなたが来て心につかえていたことをやっと、吐き出せたと思いますよ。光一のことをね。
あの写真を見た時は、私もかなりショックでしたが、わかって良かったです。もう一度光一に会えて良かったです。」

松明の火のオレンジの光に照らされてゆっくり話すお母様の顔は、本当に優しい顔でその目からいっぱい涙が溢れていた。

イヤサレル……トキハナテ…イヤサレル!

今、頭の中にあの言葉が浮かんだ。これだったのか?

私が聞いたあの言葉の意味は、ユキさんの家族の心のことだったのか?

バリの偉大なる神々よ
ブラフマ神、ウィシュヌ神、シヴァ神よ。
私の役目は果たせたのですか?

村人たちの祈り声は、低く深く闇に呑まれていくように続いていた。

#バリ島 #小説

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