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Silver story #46
さっきのやり取りがなかったかのように楽しく食事が終わると、サリナちゃんは、ユキさんと学校へ行く準備をするのにバタバタし出した。お母様は、片付けと私の足の病院へ行く段取りをするのに村長さんへ連絡を取っていた。
そういえば昨日のある意味主役の村長さんについては二人とも何も話さなかったが、実際のところどうなんだろう。
お母様の昔の思い出で、光一さんとの別れの原因だった村長さんの告白以来、お母様と村長さんはどんなやり取りをどんな時間を過ごしていたんだろう。
あの頃の想いより長い年月ふたりが、積み重ねた時間の方がお母様には大切なものになっているのだろうか?
聞いてみたいがやはり聞けない。
お母様は、あれ以来何も言わないが実際のところ光一さんに会わなくて良いのだろうか?
私がここを去る時にはっきりするだろうから今は、何も聞かないでおくことにしよう。
学校へ行く準備を終えたサリナちゃんがユキさんとやってきた。
サリナちゃんがユキさんに耳打ちして、にっこり笑って私の側に近寄って来た。
「サヤ、アシヨクナレ。イッテキマス。」
私の足をゆっくりと摩りながらサリナちゃんが日本語で話してくれた。
「ありがとう。サリナ。いってらっしゃい。」
思わず私は、サリナちゃんを引き寄せぎゅっと抱きしめていた。
この子の命の中にあるお母様の想い、ユキさんの長年の想いが、急に私の中に溢れてきてたまらなくなって思わず抱きしめてしまった。
サリナちゃんは、私の頭を撫でて笑っていたが、行く時間になっだのでゆっくり離れながらドアの方へ歩いて行った。いつもの飛び跳ねるような歩き方ではなくゆっくりと歩いて行ったのだった。
彼女の中の何かが変わったのかもしれないと思った。女の子から少女へと確実に大人へ近づいていく過程での変化なのかもしれないが、きっかけは、やはり昨夜の祀りでの大役を終えたからなのだろう。
あの大役は、普通の子の何倍もの、いや誰も出来ることのない体験で彼女の全てに影響するようなことだったと思う。
本当は聞いてみたいがあまりにも変わらないサリナちゃんの笑顔が私の口をつぐませた。ただあの飛び跳ねる姿だけがいなくなっていた。
「沙耶、もう少し待ってください。時期 あの人も戻って来るのでそしたら病院に行きましょう。ゆっくりしていてください。」
二人が部屋を出てからお母様が片付けをすませる間私は、カメラのチェックをすることにした。
日本では常にファインダーを覗き、気になる瞬間瞬間を収めていたのにバリに来て、この家に来てあまり手にしない事に我ながら驚いていた。
だいたいバリに来た目的が、
観光用の賑々しいものじゃなく、本物の現地の人が神様に近づきたくて捧げるケチャを知りたくてやってきたのだからその目的は、見事に成し遂げる事が出来たのだけど、それよりもやはり、お母様の過去と運命的な繋がりを持ってしまったことの方に感動していて、カメラや写真が二の次になってしまっている。
きっと日本に帰ってもこれからもずっとお母様達とは繋がっていくだろうし、むしろ帰ってからの方が私の役目が大きいような気がする。
ふと二人の顔が頭を過ぎった。日本にいる二人の顔。
私が住んでいたあの場所に、これから戻るあの場所に想いが強くなっていく自分を感じていた。
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