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Silver Story 【ツナガリ】#47

#47
キッチンにいるお母様の携帯が鳴りお母様が驚いたような声をあげていたので何だろうと気になってきた。
ちらっと顔を出して私の様子をうかがってきたみたいなので、ちょっとだけ不安になってきた。

「沙耶、あなた、大変なことになっていますよ。」
お母様は手を拭きながらこちらへ来るとそう言って私の足の様子を見ていた。

「お母様。何のことですか?さっきの電話の事ですか?」

「はい。さっきの電話は、あの人、村長からで、昨日の祀りの時に来ていた、大使館の人から、あなたの事を尋ねられて日本から来たカメラマンと話したらしいの。」

「はい。私も入国の時にカメラマンとして記入していましたし、入国してすぐに大使館にも行っていました。」

「でね、日本では、あなたが行方不明になっているということらしいのよ。あなたを探していると身内の方に連絡がいっているらしいわよ。」

「えーー!何で⁈何でそんなことになっているのですかね。」

「あなた、宿泊先のホテルに連絡してないでしょ?
チェックインして荷物を置いて何日間か、連絡してないでしょ?だからホテルの人が警察や、大使館に伝えたみたいよ。」

「えーー!日本にもそんな風に伝えられ出るんですか?私の身内の連絡先は光一さんなんです。親戚として書類に書いてあるから、きっと光一さんのところに連絡がいってるはずです。」

「光一のところですか……。」
お母様は、ゆっくりとした口調でつぶやいた。

あ、そうか。だからか。だから、あの夜や夢で光一さんが出てきたのか。でもあの人は、何でだろう。バリに行く前に出会ったばかりの彼がでてきたのは何でだろう?彼にも伝えられたのかしら?

「沙耶、あなた今日中に大使館に行きなさい。訳を話してあなたの無事を伝えなければ。日本にも伝えなければいけません。」

ちょっとおかしな状況に笑いそうになっていた私をお母様は、しっかりしなさいと言いそうな勢いで強く揺すってきた。

「そうですね。警察まで動いているのなら、まして日本人が行方不明とかなるとよくある事件と思われて報道とかされているかもしれませんね。」

「そうですよ。うちにテレビがないから全くわからなかったけど、もしかしたら大騒ぎになっていたのかもしれませんね。」

そう言うと今度は、お母様が笑い出しそうな雰囲気になってきたのでもうたまらなくなって吹き出してしまった。

お母様も笑い出して二人でお互いの肩や腕を揺さ振りあいながら笑ってしまった。

一通り落ち着くまで笑いあって、しなければいけない事を二人で始める準備に取り掛かろうとし、私は足を床に降ろしてみた。まだしびれは、あるが今朝のあのズキッとする痛みはなかった。

お母様は、出かける準備を始めて私にも楽に着れそうな服を出してくれた。
鮮やかな色でそれでもって肌触りの良いバリの街に合った服に着替えてお母様の準備を待っていた。
お母様はユキさんにも連絡を取りユキさんに簡単に事情を話して車で街まで連れて行く段取りをしてくれたようだ。
村長さんの帰りを待つよりもやはり私たちだけで行く方が良いのだろうと何となく雰囲気で分かってきた。

この機会に日本にいる光一さんに連絡をしてお母様の存在を告げようかしら。いや、思い切ってお母様を電話口に出して光一さんと話をさせようかしか。

私はその場面を想像してワクワクしながら、ユキさんの帰りが待ち遠しくてたまらなくなってきた。
ワクワクする気持ちとソワソワしてしまう自分を抑えようとして、カメラを首から下げて落ち着かせようとした。
寄せ来る波に流されないよう錨を降ろす船のように。

#小説 #バリの話 #バリ #カメラマン

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