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第10回 VUCA時代のプロジェクトマネジメントの手法(1)~アジャイルプロジェクトマネジメント

◆はじめに

前回、VUCA時代におけるプロジェクトマネジメントの必要性とその考え方を示しました。今回から2回にわたり、その中で具体的な例として挙げたアジャイルプロジェクトマネジメントとOODAプロジェクトマネジメントについて、前回述べたようなニーズを如何に実現しているかを中心に見ていきたいと思います。まず、今回はアジャイルプロジェクトマネジメントです。

前回、述べましたように、VUCA時代のプロジェクトマネジメントに必要な要件は

(1)未来に起こることが予測できるという考えを捨てる
(2)共有化された意識と権限委譲による実行をする
(3)組織的なパーパス適応能力を高める

です。ここでは、アジャイルプロジェクトマネジメントやOODAプロジェクトマネジメントで如何にこれらの要件を実現しているかを見ていきます。


◆アジャイルプロジェクトマニュフェストとは

アジャイルプロジェクトマネジメントとは、アジャイル開発により成果物を生み出すプロジェクトをマネジメントする方法です。

アジャイル開発には、ソフトウェアのアジャイル開発を想定して考えられた「アジャイルマニフェスト」と呼ばれる思想があります。それは以下のようなものです。

「私たちは、ソフトウェア開発の実践、あるいは実践を手助けをする活動を通じて、よりよい開発方法を見つけだそうとしている。この活動を通して、私たちは以下の価値に至った。

プロセスやツールよりも個人と対話を、包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを、契約交渉よりも顧客との協調を、計画に従うことよりも変化への対応を、価値とする。すなわち、左記のことがらに価値があることを認めながらも、私たちは右記のことがらにより価値をおく。」

「アジャイルソフトウェア開発宣言@2001」より引用
https://agilemanifesto.org/iso/ja/manifesto.html

ソフトウェア開発をアジャイルにするに当たって有志によりまとめられたものですが、現在では多くの分野でアジャイルな開発作業の基本になっている考え方です。

さらに、このマニュフェストでは、「アジャイルソフトウェアの12の原則」という形で、実現のためのプリンシプルを定めています。具体的なプリンシプルについてはこちらをご覧ください。

「アジャイル宣言の背後にある原則」
https://agilemanifesto.org/iso/ja/principles.html


◆アジャイルの本質とマネジメント

このマニュフェストの本質的な部分は、

「計画の遵守より、変化への対応を重視していること」

ですが、このマニュフェストを遵守している手法として、もっとも有名なのはスクラムです。スクラムでは、変化に対応するために、図1のように定期的に見直しを図ることができる反復型開発を取り入れています。

画像3

スクラムも含めて、アジャイルな開発手法で進めていくプロジェクトをマネジメントするに当たっては、不確実性を前提にしているため、通常のウォーターフォールの開発手法で行うプロジェクトをマネジメントと比べて、より高度なマネジメントが必要になります。

一般的にプロジェクトの初期段階では不確実性があり、不確実性を残したままでプロジェクトを進めていくことになります。これに対して、ウォーターフォールのマネジメントでは、仮説を設けた上で綿密な計画を策定し、できるだけ計画を遵守する形でプロジェクトをコントロールします。

これに対して、アジャイルプロジェクトマネジメントでは、変更に対して短期の反復を繰り返すことによりスコープに対する不確実性をできるだけ取り除くように進めていきます。このために、反復の中では計画、設計、実装、テスト、デモ、フィードバックを短期間で実施する必要があり、完成度を高めるためにチームをうまくマネジメントする必要があります。


◆アジャイルプロジェクトのチームマネジメント

このマネジメントサイクルの中核になる開発チームには、アジャイルマニフェストの12原則を背景にして考えてみると、以下のようなチームマネジメントが必要になると考えられます。

・チームは複雑なプロジェクトを実行する最適な方法である
・チームは、メンバーが仕事をやり遂げたくなるような目的やミッションを宣言する
・チームは小さく作り、ネットワークでスケールを作る
・チームはコミットメントとアカウンタビリティを持つスタッフで作る
・信頼を作り上げる時間と活動はプロジェクトのタイムラインの中で実現する
・安全な仕事の環境を提供する
・チームメンバーは、積極的に人の話を聞き、疑問点をポジティブに解釈し、建設的に反応し、他のメンバーの達成に感謝する
・チームの結果と計測は、すべての達成成果を集めて、評価する
・報酬は個人のパフォーマンスより、チームのパフォーマンスに対して行われる
・チームは、自ら、リーダーを選び、公式のプロセスを決める


◆アジャイルプロジェクトマネジメントの例

このようなマネジメントを実現するために、アジャイルプロジェクトマネジメントにはさまざまな工夫が施されています。たとえば、ジム・ハイスミスが提唱しているアジャイルプロジェクトマネジメントでは、アジャイルプロジェクトマネジメントの原則として

[1]商品提供と顧客価値の原則
 ・商品の提供が全てであり、また、その商品により顧客に価値を提供する
 ・顧客に対して価値を提供することを行動の規範として重視する
 ・商品提供にこだわるために、機能ごとの提供を、反復して行う
 ・顧客に高い価値を与えるために、機能の実現手段の独自性を重視する
 ・マネジメントの負荷を減らし、顧客価値の向上に努める

[2]コラボレーションとリーダーシップの原則
・統制ではなく、コラボレーションとリーダーシップによりプロジェクトを進めていく
・計画ではなく、探索を重視
・探索とは非常に不確実は状況で仮説を作りながら、試行錯誤を繰り返していくイメージ
・プロジェクトチーム自身がそのときの状況に形を適応させる必要がある
・マネジメントも、設計もシンプルさが重要になる

の2つの原則を掲げています。そして、この原則に基づいて、図2にように

 構想 → 思索 ⇔ 探索 ⇔ 適応 → 終結

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というサイクルでマネジメントを行っていくスキームを提唱しています。それぞれのフェーズの意味は図3をご覧ください。

画像2


◆VUCA時代のプロジェクトマネジメントとしてのアジャイルプロジェクトマネジメント

以上がアジャイルプロジェクトマネジメントの概要ですが、例えば、ジム・ハイスミスの原則との関係をみれば、

(1)未来に起こることが予測できるという考えを捨てる
 ・商品提供にこだわるために、機能ごとの提供を、反復して行う
 ・計画ではなく、探索を重視
(2)共有化された意識と権限委譲による実行をする
 ・マネジメントの負荷を減らし、顧客価値の向上に努める
 ・統制ではなく、コラボレーションとリーダーシップによりプロジェクトを進めていく
(3)組織的なパーパス適応能力を高める
 ・プロジェクトチーム自身がそのときの状況に形を適応させる必要がある
 ・顧客に高い価値を与えるために、機能の実現手段の独自性を重視する
 ・顧客に対して価値を提供することを行動の規範として重視する

といった関係があり、VUCA時代のプロジェクトマネジメントの要件を満たしたプロジェクトマネジメントだと考えることができます。

次回は、OODAプロジェクトマネジメントについて解説します。


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【カリキュラム】                     
1.VUCA時代に求められるプロジェクトマネジメントの特徴
2.成果と成果物を分けて考える
3.プロジェクトのパーパスを決定する
4.プロジェクトへの要求の本質を反映したコンセプトを創る
5.コンセプトを実現する本質目標を決定する
6.本質的な目標を達成する計画を策定し、実行する
7.トラブルの本質を見極め、対応する
8.経験を次のプロジェクトに活かす
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