ルールから組織文化へ
◆投資の対象になってきた組織文化
組織文化が注目されるようになってきています。これは、戦略実行のために組織文化が不可欠だという考え方が浸透してきたためで、米国では組織文化も投資の対象になってきているようです。
この背景には、米国でも日本と同じように人は資産だという考え方が強まってきていることがありますが、逆に日本では人という資産に頼りすぎていて、組織文化が自然にできるものだと考えている人が多いようです。
これに対して、このコラムでは
「組織文化を自分たちのビジョンやパーパスを実現したり、戦略を実行するために創るものである。そして、組織文化を活用し、その中から組織文化を発展させていく。この一連の流れを作るのがリーダーシップの役割である」
という考え方しを取りたいと思います。組織文化に対してはこういう視点が必要だと考えるからです。
◆プロジェクトを例にとってみると、、、
プロジェクト業務を例にとって考えてみましょう。プロジェクトでいろいろと進め方のルールを決めてもどうしても守られないため、だんだんルールがエスカレートしてくることは珍しいことではありません。例えば、進捗報告のルール一つとっても10項目くらいのルールを決めている組織は決して珍しくありません
これは組織としては、ルールを守らない原因は個人やプロジェクトにあると考えているからですが、本当に正しいのでしょうか。問題はルールを守らないメンバーやプロジェクトマネジャー個人よりむしろ、組織にあるのです。そこで問題の中核になってくるのが組織文化です。
例えば、理由があればルールで決められていることだけ守ればよいという文化がある組織と、ルールに決められていなくてもプロジェクトの成果に役立つことはすべきだという文化のある組織では、おのずと結果が変わってきます。
そこで考えたいのは、どのようにして目指す文化を決めるか、そしてどうやって文化を定着させていくかです。
◆プロジェクトの成功要因はプロジェクトマネジメントだけか
組織文化といえば組織の特性だというイメージがあるので、漠然としたものだと思っている人が多いと思いましが、出口は人の行動です。非常に明確なものです。
ここではプロジェクトを例にとって、少し違う観点から考えてみます。
プロジェクトの進行を巡ってはこの20年間、多くの企業がさまざまな取り組みをしてきました。そして当然のことながら、同じ組織でもうまくいくプロジェクトとうまくいかないプロジェクトが出てきます。この要因として一般的に考えられているのはプロジェクトマネジャーのマネジメントスキルやリーダーシップであり、メンバーのフォロワーシップです。
もちろんそういう一面がないとは言いませんが、本当にそれだけの問題なのでしょうか?
◆進捗がなぜ正しく報告されないのか
例えば、上で触れましたように進捗報告がきちんとできていないという問題を例にとって考えてみましょう。さすがに、進捗報告自体をしていないプロジェクトは減ってきていますが、正しく(正直に)報告していないケースは少なくありません。一言でいえば、形骸化しているプロジェクトが多いのです。
この問題に対して、よくある問題意識は広い意味でコミュニケーションの問題で、聞き出す技術とかいった狭義のコミュニケーションの技術の問題、あるいは人間関係の問題だというものです。そして、はコミュニケーションの指導やトレーニングをするなどの方法で解消していますが、なかなかうまく解消できません。
こういうプロジェクトでメンバーの言い分を聞くと、
「プロジェクトマネジャーに正直に報告しても、結局何もしてくれないのだから、事態をややこしくしないために計画通りだと報告しておき、節目で合わせ込む」
という考え方の人が意外なくらい多いようです。
さらにいえば、一人の人があるプロジェクトではきちんとした報告をするのに、別のプロジェクトでは形式的な報告しかしないといったケースもままあり、結局、プロジェクトマネジャー次第だと認識されています。
この背景には、まずはルールを作り、ルールを守らないのは個人の責任であるという考え方があります。
ここで考えてみる必要があるのが、文化の問題です。報告は正しくして、その情報を適切に活用し、プロジェクトを進行していくという文化があれば、状況は一変するはずです。
もう少し正確にいえば、メンバーの一人一人が、すべき理由を正しく理解し、率直に意見を述べ、納得できれば指示されなくても取り組んでいくという文化があれば、進捗報告が形骸化するというプロジェクトの問題は解消するでしょう。
もう少し一般的にいえば、ルールを理解し、議論し、決まれば守ることが文化になっていればこのような問題はなくなるでしょう。
繰り返しになりますが、ルールをいくら細かく決めても、守るかどうかの問題なので、本質的に解決することはありません。上で述べましたように、プロジェクトマネジャーとの相性がよければルールを守るといったことが起こるだけです。
◆文化を創るには
ではどうすれば文化を創っていけるのかが問題です。
組織文化を創るというと、組織全体の問題だと思われがちですが、実はそうではありません。もちろん、組織全体として経営や事業を進める方向性を示すビジョンやミッションがあることが前提になります。それがあれば、部門だとか、事業、プロジェクトがその実現に必要な自分たちの文化を考え、それを行動レベルに落とし込み、そのように動いていくことはできます。現に、あの会社でもあの事業部だけは文化が違うという例はよく見かけます。
ここではプロジェクトのレベルでどうやって組織文化を創っていくかを考えてみたいと思います。
プロジェクトでまず注目すべきなのは、プロジェクト憲章です。多くの組織は、プロジェクト進行上のルールは守って当たり前だから改めて確認しないとしており、守らなければ個人の責任にしています。
プロジェクトでミッションの実現や経営に貢献する成果が生み出せるかどうかは、プロジェクト憲章によってプロジェクトであるべき姿を言語化し、議論するために用いることです。その中には、成果物の決定もありますし、その成果物を得るために必要な行動の定義もあります。
言い換えると、プロジェクトのルールは守られるものだという前提で考えていますが、これは間違いではです。むしろ、ルールは守られないという前提で考え、守る方法を真剣に考えると、誰からの責任で守るという考えではなく、プロジェクトの組織文化の問題だという答えに行きつきます。
◆変動が激しい時代にはルールは守れないという前提が妥当だ
最後にプロジェクトに限定せず、一般的な話をしておきます。ルールはどれだけ詳細にしても守られないという前提を持って、文化の構築に取り組む提案をよくします。しかし、そういうやり方は面倒なので、どんな場合にも抜け道がないルールを考えてほしいという反応をされることが圧倒的に多いのが現実です。
確かに、心構えが正しければルールは守れる時代であればルールを守れるという前提でもよいかもしれません。例えば、コロナの騒動を見ていてもきちんとマスクをし、手洗いをする日本人はそういう人がほとんどです。
しかし、変動が激しければ、ルールが守れるという前提そのものが崩れる間違いありません。法律は問題の後追いだとよく言われますが、この話が本質です。コロナを見ていても分かるように、さまざまなルールが後追いで決まっています。問題解決の根幹である、発症時の対象すらさまざまに変化しています。VUCAとはそういうものです。
このような状況に対応するには、ルールをいくら詳細化しても、対応できません。組織文化をVUCAに対応できるように変革していくことが不可欠なのです。
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