十数年の時を超えてきた僕たちは

なんの偶然かはしらない
彼と私はたまたまとある年の同じ夏に生まれた
その差は3週間くらい

十数年前、彼の歌声は私の日常のひとつだった
とはいえ、かなり軽いファンでしかなく
新しい音源が出て気に入れば買います、くらいの
おつきあいでしかなかったけど

彼が所属していたバンドがいざ解散となったとき
彼だけがどうなったのかよくわからなかった
なにかあって歌うのを辞めてしまうのかな
そう邪知したりもした

それからも当時の彼の声は時折私の生活に現れていた
前身のバンドをセルフカバーしたアルバムとか
カーオーディオで流しながら
懐かしいなぁと思ったりもした

そしてそのうち私はバンギャを辞めた
(ヴィジュアル系が好きな女性のことをそう言うのだ)
ど田舎に住みつつあちこち遠征していたが
それが年齢的に少し厳しくなったから…もあるけど
一番大きな理由は他にあった

私は精神的な持病がある
それがかなり悪化してしまったからだ

働くことを続けられなくなり、貯金などすぐに無くなった
体力も落ちて遠くに行くことは難しくなった
そしてとうとう家からほぼ出られなくなった
1日のほとんどを自室で眠っている日々
通院帰りに人の少ない時間のコンビニに
なんとか行けるくらい
そしてそれすらとうとうできなくなった
治らないのに病院に行く意味なんて見つけられなくて

途中仕事を始めたこともあったがすぐに辞めてしまった
結局引きこもりは5年くらい続いた
自らその鼓動を止めようとしたときもあった

そんな日々の中、恩師の紹介でとある職についた
そこでとある男性と出会い、恋をして、
結婚することになった
その職も結局は持病の再悪化によって
1年ももたなかったけれど
傍から見れば寿退社みたいな感じに見えていた

それから間もなく私は大好きな父を亡くした
自暴自棄になり、また自らの鼓動を止めようとしていた
そのうちに世界はコロナ禍に入り
父が生きる糧にしていた結婚式も中止になった
なんとか予定どおり入籍はさせてもらい
心と身体の弱い私は専業主婦となった
そしてとうとう精神障害者となる

そんな日々を過ごすうちに
Twitterでゆきさんという女性と出会い
ネット上で仲良くしてもらうようになった

彼女はよく貘ちゃん、貘ちゃんと言っている
BAKU-BANDというバンドが好きらしい
あのバンドのボーカルと同じ名前だなぁ、と私は思った
そして彼女が好きな『貘ちゃん』について調べてみた

あれ?
この顔とこの声知ってる…!
彼、貘は彼女の言う『貘ちゃん』であったのである
古いアルバムをふいに見つけたような気持ちになったこと
今でも覚えている
花少年バディーズの貘は十数年を経て、“貘さん”になっていた

そのうち私はゆきさんが大好きな今の貘さんが
すごく気になりだした
彼女にいろいろと質問して
公式サイトを見て、YouTubeの公式チャンネルを登録し
公式ラインと友だちになり貘さんのTwitterをフォローした
ついでに言えばそのことを伝えたツイートは
ドラマーさんからいいね!をもらっていた(笑)

そんな折、貘さんのバースデーライブがあると知った
いいなぁ、行きたいなぁ…
コロナも5類になって越県もしやすくなったけど
バンギャ時代にしょっちゅう行っていた東京は
今の私にはあまりにも遠いところになっていた

せめてライブがうまくいきますように
そう思っていたら当日台風が直撃するかもしれなくなり
急遽ライブ配信が行なわれることが決まった
私はその配信チケットを買った

当日はまぁ、いろいろあってリアルタイムで見ることは
残念ながら叶わなかったが
ライブ終了後、当日の夜にアーカイブを見ることができた

私と同じだけ歳を重ねていた同い年の貘は
やっぱり貘さんになっていた
でも煽り方、お客さんのノリ方…
ああ、なんかあの時代を思い出すなぁ
10年くらい前に鍵をかけて心の奥にしまい込んでいた
バンギャ時代の想い出が詰まった箱
その箱の鍵が弾け飛んで、中身が飛び出してきたような
そんな気持ちでいっぱいになった
彼はずっと歌っていて、鼓動を刻み続けていたんだな
彼とバンギャだった私に
“おかえり”と言われたような気がした

こうしてアーカイブを見終えた私は
胸がいっぱいになっていた
何度も鼓動を止めようとしてたけど
改めてその鼓動が止まらなかったことに感謝した

貘さん、私は頑張って生きていく
もう鼓動を自ら止めようとはしない
ゆきさん、貘さんを私に思い出させてくれてありがとう
大切にしてた想い出を取り戻させてくれてありがとう

3500円以上の幸せを
なんだったら35000000円くらいの幸せを
いやむしろこの幸せこそがPricelessというものでは?

花少年バディーズは『絶対的ハピネス』を謳っていた
いうならばこの想い出したハピネスこそPriceless
貘さん、私にも花が咲きました

私はいろんな糸を引き寄せたのかもしれない
そしてその先に彼がいた
ただいま、といえば、彼は久しぶり、と返してくれるかな

冒頭に書いたとおり同じ年の夏に生まれ
ほぼ同じ時間、心音を刻んできた彼と私
41なだけにヨイコトがたくさん起きると良いね

貘さん…いや今回だけは昔のように言おうか
貘!お誕生日おめでとう!!
幸せになろうね!絶対に!!



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