『トリサンナイタ』(距離四首)
著者、地震発生、被害、福島第一原発事故
著者1969年11月17日東京都大田区に生れる。
1989年19歳早稲田大学第一文学部に入学。
1995年25歳国際交流基金派遣日本語教育専門家として、
中国吉林省長春市にある東北師範大学赴日留学生予備校で日本語を教える。
2000年30歳1月、宮下拓と結婚。2008年38歳復活徹夜祭に受洗。6月、長男・暢誕生。【1】抜粋
<本書あとがき>2005年の末から2012年1月までに発表した作品より選んで、第四歌集をまとめました。
この6年の間に、受洗、出産、仙台から宮崎への移住という、私個人にとっては大きな変化がありました。【2】抜粋
地震発生
2011年3月11日14時46分東北地方太平洋沖地震が発生。【3】
人的被害と住家被害
防災白書によると、東日本大震災をもたらした「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」は、マグニチュード9.0という我が国の観測史上最大の地震であり、
死者・行方不明者は12都道県でみられ、死者15,859人、行方不明者3,021人
住家についても、全壊は10都県で発生し、その数約13万棟、半壊は13都道県で発生し、その数約26万棟となる大きな被害が生じた。【4】抜粋
福島第一原発事故
津波は防波堤をこえ、1~4号機の主要な建物を5メートル程度の深さまで浸水させた。
15時42分までに1,2,4号機は全電源喪失という事態におちいった。
1号機で水位低下。
核燃料のメルトダウン発生。
水から露出した核燃料から放射性物質がもれた。【5】抜粋
距離四首(歌、語釈)
一首『パソコンを点しつながる朝焼けのひかりの海に沿ひ四基見ゆ』パソコンを起動し、朝焼けで染まり光っている、海岸沿いを見る。原発四基が視界に入ってくる。
二首『Googleマップいくたびも見る 原発とわれとの距離を確かめながら』グーグルマップを何度も見る。原発と自分の距離を確かめながら。
三首『放射線見えなばいかに光るらむ欅並木は雨に濡れつつ』放射線が見えてしまったならば、どのように光るのだろう。欅並木は雨に濡れ続ける。
四首『みどりごは祝福されて原子炉から三〇キロを隔てて眠る』【6】【7】幼子は神から祝福されて、原子炉から30キロ、仕切られて眠る。
解釈、終わりに
解釈
東日本大震災によって多くの生命が失われ、今なお行方不明の方々も沢山おられる。
家族を失い、住むを住家を失い、職場を失った。
福島第一原発事故とは、津波によって、電源喪失が発生し、核燃料の冷却が不能に陥り、メルトダウンに至ったもの。
事故によって大量の放射性物質が、大気中に放出された。
以上を背景として、本作品は作歌された。
我が子を見えない放射線から遠ざけ、如何に守るかに思案する姿。
朝焼けの海岸沿いに、現前と存在する原発。
距離を幾度も確かめ、苦悩する様子が想起される。
我が子を害するものから守ろうとする、母親の切なる思いが込められた歌。
終わりに
私自身、本歌に出会うまで、東日本大震災と原発事故は、忘却された過去の出来事だった。
本歌をよみ、東日本大震災に関することを調べた。
本歌四首は、東日本大震災及び福島第一原発事故と、被災地で生活をしていた母子のことを、後の世に時間の壁を超えて、伝える力をもつ。
テクスト歌集トリサンナイタ 2013(平成25)年2月5日2刷 著者大口怜子 角川書店 181頁~182頁
<参考文献>
【1】セレクション歌人5大口怜子集 2008年11月17日 著者大口怜子 邑書林 大口玲子略歴143~144頁
【2】歌集トリサンナイタ 著者大口怜子 2013(平成25)年2月5日2刷 角川書店 あとがき222頁2012年4月25日
【3】ニュートン別冊検証福島原発1000日ドキュメント 2014年5月15日 ニュートンプレス 18頁
【4】防災白書<平成24年版> 2012(平成24)年8月17日 編集内閣府3~4頁
【5】ニュートン別冊検証福島原発1000日ドキュメント 2014年5月15日 ニュートンプレス 36~39頁
【6】広辞苑第七版 2018年1月12日 第一刷 編者新村出 岩波書店 312頁 あ~そ <嬰児>
【7】新カトリック大事典第3巻 2002年8月第1刷 編集学校法人上智学院新カトリック大事典編纂委員会(高柳俊一) 研究社 202頁
短歌用語辞典 増補新版 2019(令和元)年 初版第1刷 著者日本短歌総研 飯塚書店
旺文社古語辞典[第十版増補版] 第十版増補版 2015年10月15日 編者松村明、山口明穂、和田利政 旺文社
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