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職業としての小説家

 村上春樹著  2015年9月17日第1刷発行 スイッチ・パブリッシング

はじめに この作品は村上春樹氏の自伝的エッセイであると同時に、小説家及びライター等に対する、マニュアル書の性格を有する。

あらすじにうつる前に、本書の成り立ち及び構成を記す。本書あとがき裏側に掲載されている文章を、そのまま転記する。【本書の第一回から第六回までは「MONKEY」vol.1~vol.6(スイッチ・パブリッシング刊)】に連載され、第十二回は「考える人」2013年夏号(新潮社刊)に掲載された。他はすべて書き下ろしである。

あらすじ

第一回小説家は寛容な人種なのか他業種からも出入り自由の、フリーな世界。小説家は変わった人、つまり変人が多い。小説を1~2冊書くことは、そうむずかしいことではない。但し20年から30年継続できる者は、非常に少ない。

第二回小説家になった頃中学生から高校生にかけては本を沢山読んだ。そして、音楽を浴びるように聞いた。大学生のときに学生結婚をした。ジャズ音楽を一日中聴いていたいという理由で、飲食店をはじめる。貧しい生活だったが幸せだったと述懐する。1978年4月神宮球場にて、ヤクルト・スワローズ対広島カープ戦を観戦中、(そうだ、僕にも小説が書けるかもしれない)と思いたち、小説を書く。デビュー作『風の歌を聴け』

第三回文学賞について芥川賞等の在り方に疑問をなげかける。一番大切なのはよき読者である。

第四回オリジナリティーについてビートルズ『プリーズ・プリーズ・ミー』、ビーチボーイズ『サーフィンインUSA』を、例にあげてオリジナリティーについて語る。

第五回さて、何を書けばいいのか?小説家になろうとする者がするべきことは、多くの本を読むこと。目にする事物、事象を、子細に観察することである。結論を急いで出さず、素材(マテリアル)をたくさん貯めておくことが重要だ。

第六回時間を味方につけるー長編小説を書くこと短編や中編小説は、長編小説を書くための練習であり、長編小説を書くことが生命線である。常に一定のペースを保ち書きつづけ、スタンスを崩さない。数え切れないくらいの書き直しをする。

第七回どこまでも個人的でフィジカルな営み煉瓦職人のごとく作品をつくりあげる。どこまでもストイックな生活をし体を大切にする。フランツ・カフカやアンソニー・トロロープを例に、作家としての在り方を語る。

第八回学校について学校に対しては学ぶべきところはあまりない。本をいっぱい読み、高校生になってからは英語の小説を、原文で理解出来るようになった。

第九回どんな人物を登場させようか?20年間は1人称「僕」で小説を書き続けてきたが、『ノルウェイの森』からは[名前付け]を断行する。小説が3人称になり物語の可能性が広がる。2000年代に入って3人称という新しいヴィークルを得たことで、新しい領域に足を踏み入れる。

第十回誰のために書くのか?『羊をめぐる冒険』を書き出した頃が(気分が良くて何が悪い)という書き方からの転換点になる。店をしながらの兼業作家から、専業作家になることへの決断。国内での作品に対する批評は、ネガティブなものが多い。デビュー以来、読者には恵まれている。

第十一回海外へ出て行く。新しいフロンティアニューヨークを手始めにゼロからスタートし、日本を飛び出し世界にチャレンジする。日本での自身に対する文学界の重苦しい空気から、解き放たれた。よき翻訳者とのペアリングと、スタッフ選びの大切さを語る。

第十二回物語のあるところ・河合隼雄先生の思い出人間の心の深いところに入っていくところの機微について、共感できる唯一の人間が河合隼雄先生だと告白する。

まとめ多くの者が小説家になる夢、或いはライター等になる夢を抱いている。10年、20年、30年と生き残れるのはほんのわずか。時間の洗礼の前にシビアに淘汰されていくのが小説家とういう職業。一旦リングに上がったならば、気の遠くなる持久戦が待っている。

深く響いた作品中の言葉を、記して終わります。(しかしリングに上がるのは簡単でも、そこに長く留まり続けるのは簡単ではありません)作品本文15ページ14行


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