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楽天IR戦記_読書メモ

市川 祐子(2019)『楽天IR戦記--「株を買ってもらえる会社」のつくり方』

 Twitterで誰かがお勧めしていて気になったため購入した本書。IRの部署って普段どんなことをやっているのだろうかという好奇心と、企業側の株主対応を知れば、株主として気を付けるべき・注目すべき点を学べるのではないかという野心から気になりました。私が普段勤務しているフロアではすぐ隣にIR部があり、決算発表時などには大変バタバタしているのを目撃していました。なので、私はIR部の存在をギリギリ認知していましたが、もしかしたら自分の会社がどのような体制でIR対応をしているか普段の勤務の中では知りえない方もいるかもしれませんね。私も含め、そんなIRについて知識がまだない人にうってつけの書籍が本書だと思います。話は著者が前職のNECから楽天にIR担当者として転職してくるところから始まります。2005年の転職から2017年の楽天退職までの間に、楽天内で行われたIR活動を見ていくと同時に、IRとはどういった目的でどのような手法をもって行われるものなのかについても広い視点から知ることができるように感じます。

 ここからは本書を読みながら心に浮かんだ由無し事をそこはかとなく書き記そうと思います。

(楽天で同社初のIR専任者を募集していると知って、)「IR担当としては経験がまだ浅かった私ですが、これはチャンスだと思いました。」

 結果的にその後のキャリアとして、著者は業界誌で何年も Best IR Professionals のトップ3にランクインしたり、経産省の研究会の委員も務めるようなIRの専門家となったわけですが、そんな方でも当然経験が浅い時期があったわけです。その経験が浅い時期における著者の思考で自分との違いを感じたのが上記のものでした。経験が浅い状態で、IR専任者の募集をチャンスだと思って挑戦していく気概。これこそが事を成す人の思考なのかもしれません。この時著者はIR担当者としてのキャリアは浅いものの、社会人としては10年以上経験があり、IR担当者としても失敗はあまり認められなかったのではないでしょうか。それに比べて、社会人1年目の私。ある意味、ミスし放題です。こんな状況にいる私が経験の浅さを理由に挑戦を避けているのはなんともったいないことか。明日からリスクを恐れず挑戦します。

「IRの目的は「投資家と良好な関係を築くこと」ではなく「株を買ってもらうこと」こそが目的であり、投資家との信頼関係構築はその前提条件であることを再確認するのです。」

 これを読んで私は「ではなぜ企業は株を買ってもらいたいのか」という疑問が浮かびました。株式を発行して資金を株主から集める際にも、一度決まった価額で株式を発行したら、それ以降の株価がいくらであろうと株価の動きに連動して企業の資金が直接増減するわけではないは確かだと思います。そこで、Googleでざっくり調べたところによると、

①敵対的なM&Aの標的になりにくく逆に自社株との交換方式によるM&Aや資本提携を仕掛けやすくなること
②次に増資をする際の単価が上がり、少ない株数でより多くの資金を集められること
③ストック・オプションを導入している企業での従業員・役員のモチベーション向上
④(これはまだよく理解できていませんが、)金融機関や取引相手企業からの信用力が向上すること

などがメリットとして挙げられるようです。
 また、株価の上昇だけでなく維持のためにも大手機関投資家へのアプローチは必要です。というのも、企業としては大株主には安定的に保有していてほしいものである一方で、大株主も何らかの理由で株式を手放すことがあり、その際に次の大株主がすぐに生まれるように手配、根回しをしておくことが重要なようです。

(楽天市場で生卵を売る養鶏家さんについて楽天大学という部署の方が語る台詞)「超高いけど超リピーター多いよ。美味しいから。あと、日記でひよこが大きくなる過程を見たり、この人の餌のこだわりを知ったりするとファンになるから。」

 ここはIRとはほぼ関係のない内容ですが、やはり高付加価値商品を市場に出してマネタイズの軌道に乗せるには、ファンをどれだけ作れるかにかかっているのだと思いました。ファンがファンを生む段階ではまた別の方法論を議論・活用する必要があると思いますが、一次的なファンを作る際には、生産者の熱意や、いかに商品に興味を持ってもらうかの工夫が重要だと感じます。日記のような人間味が表れるものの活用は、人間味が薄くなりがちなインターネット社会やECにおいて人々の心の渇きに響くのではないでしょうか。

「売り方は価格よりも重要」

 この言葉だけを聞くと、価格差は小手先の販売テクニックでカバーできると解釈することもできると思いますが、私は価格に直接は表れていない内容にこそ価値があるということなのだと解釈しました。楽天にはECコンサルタントという担当店舗にECサイトでの販売の仕方をアドバイスをするための営業マンがいたり、楽天大学という出店店舗スタッフ向けのセミナーを開催したり、出店店舗を集めた大規模リアルイベントを開催したり、それらを通して出店者同士のコミュニティが形成されたりと、出店の場を貸すという観点から見ただけでは把握しきれない付加価値が存在します。それらを含めた出店の対価として料金をもらうということは、ただのスペース提供とは全く違った価値提供であり、高価格でも利用したいと思う人は表れるのでしょう。ただし、価値提供が利用者にとって有益なもの、あるいは有益と気づいてもらえないものでは利益にはつながらないですよね。どこで自社が差別化、競争優位を作っていくかを考えるときには気を付けたいです。

 最後に、本書での楽天のIR活動を通して、楽天の経営層の考え方や考えていることの一端を垣間見ることができたように感じています。気づいた時には楽天という企業のファンになっていました。企業の方針や特長を世間にお知らせすることになり、それがファンの増加につながっていると思うと、このような書籍での露出も広義でのIR活動と言えるのではないかなどと考えていました。


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