【日曜興奮更新】だから書くことにした

さきほど手紙を書いてみた。

よく自分で読んでみると、人に読ませるものではないと思った。ましてや、好きな男に読ませるというのなら素晴らしく心揺さぶるものを書いてみたいものである。

深夜に書いたものが翌朝恥ずかしくなると、色んな人から聞いていたので念のため、ニ晩寝かせてみたのだ。よりダメになった。これはカレーではなかった。

その文から匂い立つものは、ただの好きをぶつけただけで発展がない。



初めて長い文を書いてみようと思ったきっかけは、26歳の頃に出会ったキャッチの男だった。

ナンパに近い形で、新宿の地下の飲み屋に二人で並んで座る。

こういう時、緊張して何を飲んでいいのか分からないのでつられてビールを飲むことになった。

「なんか面白い話してよ。」

これがこの男の口癖であった。こちらは少し酔いが回ってきたが、まだ心の警戒は解けない。昨日、食べたものを順番に簡単に言ってみた。

「なんだよそれ。ただの報告じゃないか。」
「面白い話って、どうしたらいいの。」
「いや、俺ができないから聞きたいんだよ。」
「できないのかよ。面白い話ねー。」
「俺、ナンパした女の子みんなに同じ質問してるんだ。」

ハイボールを3杯ハイスピードに飲んでいく彼を見て、きっと寂しい人なんだと思った。

「私、あんたのことよく知らないけど、なんか面白い話できなくて悔しい。」
「最近、怒ったことないの?」
「あるよ、そりゃもうたくさん。あのね、」

私とヤッた後すぐに、ヤニだらけの壁へ正の字の最後の棒を足して書き、『完成』とセフレの男が言ってきた話をした。

話す順番なんか考えずに、ここで私は怒ったのだということを箸を握りしめて話してみた。親指に長方形の箸の跡がついた。

「あるじゃん、面白いけど可哀想な話。」
「どこが面白いんだ。本当に腹立つよ。私は正の漢字を完成させるための一コマだったんだよ。」
「正というより、性なのかな。」
「ねぇ、ほんとにうるさいよ。」

酔っ払ってどうでも良くなって、幸せに笑う顔が素敵だ。

ラインを交換した。

両手を繋いで、彼がこれから夜の街へ仕事に行くのを見送ろう。左手にTOHOのゴジラが睨んでいる。今、火を吹かれたら二人とも死ねる。

「なんか元気出たよ。あれ、名前なんだっけ。」
「ライン交換したでしょ。」
「あとで見とくから、何か送ってね。」

友達リストに何百人も女がいると話していた彼は、個人をしっかり覚えるということが大変とのこと。


さよならをして振り返ると、もう彼は女子高生の波に揉まれていなかった。それでも悲しいというよりは、何百人の中でも彼の記憶に残る女になれるかもしれないと思った。

東口から地下へ降りる階段にもたれて、策を考えた。酔っ払ってしまった頭を白いコンクリートに当てれば少しはマシなアイデアが浮かぶ。

LINEスタンプ、今日は楽しかったですの感謝メッセージ、どれも違う。

彼が求めていたのは、面白い話だった。それもただの面白い話でなく、大変な目にあったことを包み隠さない無駄に勢いが乗ったもの。

これまで惨めで恥だと思っていたこのモヤモヤした思い出を、先ほど居酒屋で怒って話したように、長文を入力して送ってみた。この親指は今夜すごく働く。

すぐに返事が来た。

「お前、どんだけ大変な目にあってんだよ。最高だと思うよ。俺、お前より幸せな気がしてきた。」

評価はすぐに下され、私は自信というか救われたような気持ちになる。このクソみたいな男を少しでも良い気持ちにさせたという実績が、いま積まれたのだ。

そこからは、彼へ「大変な目にあった思い出」を送ることが癖になってしまった。

決して文章を書くのが好きなのではない。長文を書いても給料は増えない。親も喜ばない。

しかし今日も新宿で、居酒屋のカウンターにて酒に溺れてしまう男に、自分はこの人よりはマシかもしれないと思わせる、そういう流れにハマったのであった。

怒りが優先、事件が起きて、あとで書く。

特技もない、趣味もない26年間で最も生き生きとしてしまった。たまには幸せを伝えようと、二、三行書いて思ってしまう。

「誰が喜ぶだろう。」

あの男に送るとしたら、すぐにそれは違うだろうと言うだろう。

この戦争な日々に笑いながらレポートしている、そういう姿を私も見てみたい。何が感動できる文章だ、そんなのは出来る人に任せておこう。今は淡々と流れ弾に当たり貫通して、それが新宿の男に届く日々を楽しむ。


「大変だったね。」の一言はいらない。

1500文字の熱々の悲しみを送信してしまえば、返事が来るだろう。来なかったら、また違う人に送ろう。


そして今、ラブレターを書いている。

カッコつけようとしたら筆が止まる。自分だけの気持ちを書くとうまくいかない。思いっきり好きという気持ちに向き合うと、クソみたいで面白さが半減してしまう。

「最近、怒ったことないの?」

彼が最初に言ってくれたことを思い出す。

それなら大量にある。まだこれからも書けそうだ。


思いっきり次の執筆をたのしみます