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2020年2月9日(日)、車内にて

彼の気持ちも、わたしの気持ちもわからなかった。

なかなか休みの合わない2人の久しぶりのデート。
この日はバレンタインも近いから、前日にチョコレートマフィンを用意して、
仙台駅周辺へ出かけた。

付き合って5年目。
そろそろ同棲しようかと話が出ていた。
それを昨年のいつ頃から進め始めたのか全く思い出せないが、何ヶ月も動きが見えないまま。
彼の仕事は不規則に忙しく、「おはよう」と「おやすみ」だけで連絡が終わる日の方が多かった。
1ヶ月に1度会えれば良い方で、真面目な話などせず、2人して今この時しか楽しんでいなかった。不安だった。


本当に同棲できるんだろうか。
この人と一緒に居て大丈夫だろうか。
他にもっと良い人がいるんじゃないだろうか。
そもそもわたしはこの人のことが本当に好きなんだろうか。

そういえばわたしは、この人に面と向かって「好き」だと言ったことがないじゃないか。
周りは愛を伝えることができているのに。


前に進まない現状から負の感情が湧いては止まらず、次第に誰かと比較するクセが始まり、折角のデートだというのに心は暗かった。


なぜこの人と付き合っているんだろう。


帰りの道中、「ほんとに同棲する気あるの?」とぶっきらぼうに言った。
自分のモヤモヤを相手のせいにした。
「もちろんあるよ!」と返されても安心できなかった。
1番聞きたいことも1番言いたいことも自分の中で違うから。
家路に着くまで無言だった。


でもこのままの状態で、我が家に入れる気がしなかった。
家の近くの空き地に駐めた車内にて、この日初めて心を通わせた。

「好きという感情がわからない」
「⚪︎⚪︎を好きなのかわからない」

彼を傷付けたいが為に発した言葉じゃなく、相談のような疑問だった。
当人に投げかけるとは、なんて奴なんだろうと思うんだけど、
わたしにはアンドロイドみたいなところがあるって自負してる。

案の定彼は別れ話だと感じ泣きそうな顔をしていたので、

「⚪︎⚪︎はどういうとき、わたしを好きだと思うの?」と聞いた。

わたしの感情が赤ちゃんレベルで終わっている質問だが、純粋に気になった。

彼はわたしとは真反対の人間で、いつもニコニコ、ストレートに感情を伝えてくれる。
この質問にも引くことなく、わたしの好きな所をたくさん言ってくれた。
申し訳ないが覚えていないのだけれど。


彼も、友達も、恋人に愛を伝えている。
わたしは受け取るばかりでしていない、できない、どうして?
好きじゃないから?
たった2文字が言えない。
恋愛している上で、それが1番の悩みだった。


でも本心で渦巻いているものを紐解けば、

「連絡が少なくなって寂しかった」
「久しぶりに会えると思って嬉しかった」

と、隠された感情が出てきた。


なぜかこの言葉を発した瞬間ぼろぼろ泣いてしまった。

「それは好きってことだと思うよ」

すうっと、胸が軽くなっていくのを感じた。

彼がそう信じたかったが為の、彼自身の為の言葉だったかもしれない。(そう思うと不憫でならないが)

でも世の中、照れ臭さいのがいつまで経っても苦手な人間だっているはず。
わたしみたいな。

2人で愛を伝え合う関係も素敵だと思う。
けれど一方が素直で、一方が素直じゃない関係でも、2人が心地良ければそれで良いのだとも思えた時間だった。


最後に一言、


「もうバイバイするのがつらい」

と、告げた。
2人して感情的に言い合って、泣き笑いした。



彼が帰った後、写真が送られてきた。
わたしが作ったチョコレートマフィンを大口開けて頬張る写真。変な顔。
さっきの話は気にするなと元気付けるように。


わたしに無いものを持っているあなたに、気持ちが救われた。

そして、今に繋がっている。
相変わらず夫の仕事は不規則。
2人が一緒の時間は寝ている時間の方が長い。
休みも月に1日合えば良いぐらい。
それでもあの頃より幸せだ。

素直になるのも、悪くない。





(2019年10月〜20年2月の雑記帳より)

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