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心理学コラム⑨威嚇は有効なのか
相手に譲歩を強要する威嚇手段を持つことは、果たして有効なのかー
その点について検討した昔の研究があるので、それを紹介いたします。
Deutsch & Krauss (1960)は「トラッキング・ゲーム」という
鉄道模型を用いたゲームを考案しました。
・このゲームでは、A社とB社に分かれて、鉄道の運行を行います。
・一度目的地に着くたびに、60セントが支払われます。
・しかし、運航に要した時間1秒ごとに1セントが差し引かれます。
・そのため、運行に60秒以上かかると赤字になります。
目的地に到着するには、2つのルートがあります。
ー最短ルートだが、1車線しかない
ー迂回ルートで、鉢合わせることはないが、相当時間がかかる
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最短ルートで両社の列車が鉢合わせると、片方が道を譲らないといけません。
その分時間がかかるため、赤字につながります。
さらに、最短ルートには、A社とB社それぞれが使えるゲートがあります。
このゲートを閉じてしまえば、相手が通ることが出来ないため、相手に対する威嚇として使うことが出来ます。
このゲートの設定を以下の3つに分けて、両社の成績を検討しました。
〈ゲートなし〉条件
〈A社のみゲートを使える〉条件
〈両社ともゲートを使える〉条件
その結果、
〈ゲートなし〉条件では両社とも黒字でしたが、〈A社のみゲートを使える〉〈両社ともゲートを使える〉条件では両社とも赤字となりました。
興味深いのは、〈A社のみゲートを使える〉条件は一見A社に有利ですが、結果としてはA社も赤字になったところです。
この結果は、威嚇という手段は、それを使うこと自体が相手の譲歩を得られにくくするということを示しており、威嚇そのものが不利益につながることを示しております。
この研究は、核戦争の脅威が問題意識の出発点となっています。
現在は、核を用いた様々な駆け引きが行われ、「核の均衡」と呼ばれる仮の平和が続いてきました。
しかし、Deutsch & Krauss によれば、双方が威嚇手段を保有しているこの状態は、利害衝突の解決がもっとも得られにくく、もっとも非生産的な状態なのです。
また、一方だけが威嚇手段を持っている場合でさえ、威嚇の手段の保持はそれを保持している側にも利益をもたらさないことを示しています。
写真:鳥取砂丘 砂の美術館
引用文献)
岡本浩一(2008)社会心理学ショート・ショート 実験でとく心の謎, 新曜社.
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