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【ニュースレター 第4号】 次世代太陽光発電 ペロブスカイト太陽電池

最近聞き慣れない言葉をちょくちょく見る。「ペロブスカイト」だ。

ペロブスカイト型太陽電池は、次世代のエネルギー技術として注目を浴びている。シリコンソーラーパネルのコストが低下している現状において、ペロブスカイトは太陽エネルギーをさらに効果的に利用するための新技術として登場している。うまくいけば、世界のエネルギー供給における太陽光発電を劇的に増加できるかもしれない。

今回はそのペロブスカイト太陽電池に注目する。そもそもペロブスカイトの技術はどんなものなのか。どんな公的支援を受けるのか。普及において、どんな利点や可能性を持つのか。

ペロブスカイト太陽電池とは?

ペロブスカイト太陽電池は、ペロブスカイトという特定の結晶構造を持つ薄膜材料を使用して太陽光を吸収する。この名前はロシアの鉱物学者Lev Perovskiから取られた。従来の太陽電池はシリコンを主要な素材として使用しており、その高温の製造プロセスは製造費用も高くつく。一方、ペロブスカイト型太陽電池は薄く、軽量で、曲げることも可能である。そのため、建物の壁や電気自動車の屋根など、従来のソーラーパネルでは考えられなかった場所への設置が可能となる。

積水化学のペロブスカイト太陽電池 (Nikkei Asia)

特に日本のような山が多く、新しい太陽電池の設置スペースが限られている地域では、ペロブスカイト型太陽電池の普及が鍵となる。この技術は、弱い光の条件下でも発電が可能で、設置コストも抑えられるというメリットがある。

また、ペロブスカイトの主成分であるヨウ素は、なんと日本が世界第2位の生産国であるため、供給網の安定性や国産化への期待が高まっている。中国がシリコン型ソーラーパネルの主要生産国であることからも、日本がペロブスカイト太陽電池を量産できるという可能性は確かに美味しい話だ。

国を挙げての研究開発推進

ここ数ヶ月間、、岸田内閣はGX戦略の具体化に取り組んできた。2030年度までに太陽光発電の全国発電量比率を14〜16%に増やす目標を掲げてるが、2022年の比率は9.9%であり、残り7年で大幅な増加が課題となっている。

ペロブスカイト太陽電池がその鍵となるかもしれない。経産省は去年11月にペロブスカイト太陽電池を「特に有望な次世代太陽電池」と位置付け、今年4月に開催された再生可能エネルギー・水素関係閣僚会議では、「GX 実現の基本方針」に基づく再エネ導入の計画が詳しく議論され、ペロブスカイト太陽電池の技術革新も注目された。

4月の再生可能エネルギー・水素関係閣僚会議(首相官邸

公開されたアクションプランによると、

再生可能エネルギーの技術自給率向上に向け、より強靭なエネルギー供給構造を 実現していくためには、次世代太陽電池であるペロブスカイト太陽電池や、浮体式洋上風力等における技術の開発・実装を進めていく必要がある。(中略)ペロブスカイト太陽電池は、日本発の技術であり、主原料となるヨウ素の生産量が世界 2 位であるなど、技術自給率の向上につながる国産再エネとして期待される。製品化に向けた研究開発の進捗や、2023 年度から順次開始するユーザー企業と連携した実証の結果を踏まえつつ、2030 年を待たずに早期の社会実装を目指し、量産技術の確立、需要の創出、生産体制整備を三位一体で進めていく。

「GX 実現に向けた基本方針」を踏まえた再生可能エネルギーの 導入拡大に向けた関係府省庁連携アクションプラン(案)

そう、ペロブスカイト太陽電池は日本の先進技術として期待される。製品化と実装を2030年前に目指すため、「量産技術の確立、需要の創出、生産体制整備」の三つの目標に公的支援を注ぎ込む計画だ。

具体的には、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は「グリーンイノベーション基金」を通じて、次世代太陽電池の開発に約500億円という大規模な予算を割り当てている。30年度までに一定の条件下での発電コストをシリコン型と同等の1キロワット時14円以下の達成を目指す。経済波及効果は30年までに約125億円、50年までには約1兆2500億円を見込む。
また、政府は新たに発行する「GX経済移行債」の発行を通じて、さらなる資金調達を進める計画だ。

需要創出の取り組みでは、複数の省庁が協力。環境省は2024年度から、建物の窓や壁に統合された太陽光発電の普及を支援する方針を示している国土交通省も、鉄道関連の施設でのペロブスカイト技術の活用を計画している。

東京都は、積水化学工業株式会社と共に、建物外壁にペロブスカイト太陽電池を設置する先進的な共同研究を推進している。都は50年までの温暖化ガス排出量ネットゼロの目標に向け、再生エネの普及拡大を進めていて、ペロブスカイトもその戦略のうちに入る。

世界で主導権を握る日本?

再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議がペロブスカイトを「日本初の技術」と呼ぶのは、この技術を2009年に開発したのが桐蔭横浜大学(横浜市)の宮坂力特任教授だったからだ。2010年代から研究が活発化し、ヨーロッパやアジアでも開発が進んだが、いまだ世界のペロブスカイト研究で主導権を握るのは日本企業のようだ。

2021年9月、東芝はフィルム型にペロブスカイト層を均一に塗布するという技術を開発し、703平方センチの大面積でエネルギー変換効率15.1%を達成した。ちなみにエネルギー変換効率は、入ってくる太陽光エネルギーのうちどれだけを電気エネルギーに変換できるかの割合。東芝の成果はフィルム型では世界最高のエネルギー変換効率で、シリコン型太陽電池並みの変換効率を実現している。

東芝は2026年度ごろの事業化を目標に掲げる。現在の耐久性能を明らかにしていないが、耐久性の向上と低コストな製品の開発を進めているという。

東芝のペロブスカイト太陽電池活用ビジョン(東芝

東芝はNEDOのグリーンイノベーション基金の採択企業であり、その他アイシンや積水化学、カネカ、エネコートテクノロジーズなども含まれる

積水化学はペロブスカイト太陽電池の耐久性を大幅に向上させ、これまで1日ももたずに壊れてしまったペロブスカイト型の耐久性を10年相当に高めた。液体や気体などが部品の内部に入り込まないようにする封止材の技術を使い、太陽電池を保護する技術を開発した。シリコン型の約20年の耐久性に近づけようと励んでいる。

カネカは、NEDOが補助するペロブスカイト型だけでなく、シリコンと2層で重ねる「タンデム型」太陽電池の開発を推進している。設置ずみのシリコン型をタンデム型に置き換えることで、発電効率を高める狙いだ。

株式市場では、関連企業への注目が高まっている。主要なヨウ素メーカーとして、ガラス最大手AGCの子会社伊勢化学工業が国内30%、K&Oエナジーグループが15%を占める。

ペロブスカイト市場はこれからどう動く?

富士経済グループの調査によれば、ペロブスカイトの世界市場は2035年に2021年の約50倍の一兆円に達するかもしれない。

すでに欧米や中国で開発が急速に進展している。たとえば英国のオックスフォードPVはタンデム型太陽電池技術の商品化し、ポーランドのサウレ・テクノロジーズは屋内向けの電子商品タグ型のペロブスカイト太陽電池を発表した。中国でも昨年から量産化に向けた取り組みが急速に進み、多くの企業が試験生産を始めた。

ただし現状の海外製品の生産規模は小さく、価格もシリコン型より高い。日本は今のところ、世界最高のエネルギー変換効率を記録しているようだ。もし日本企業がコストと性能で優れた商品を提供できれば、市場での成功が維持できるかもしれない。

しかし正直言って、「国際市場での競争に勝つ」はくだらない理由だと思う。脱炭素社会の目標達成のために、洋上風力と同じく、ペロブスカイト型太陽電池は間違いなくポジティブな技術であり、競争は言うまでもなく研究開発のインセンティブを産むが、それより大事な理由は人類の未来のためだ。

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