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詩『縁』

感謝される謂れはない。
恐ろしい話だった。

赤子の頬に止まった蚊が血を吸っている。それは太った女との間にできた最後の私生児だった。何重も円を描いて深淵を覗くということ。昔の人はこのような場合、慎重に事を運んだ方が良いと言ったものだった。

部屋の中心から北西の方角に向かって助けてくれと叫ぶ。冷蔵庫を開けるとフジツボがびっしりと壁面にへばりついてこちらを見ている。私の浅はかさを見透かされたようでゾッとして、思わず嗚咽する。心の芯が海老剃りになって綻んでいる。

ガーシー砲にしろプーチンにしろ大義がなければ人は続かぬ。中心から周辺へ。それが正しいと信じていた。絡まりながら悶えている父親を見て育った私には派手さより落ち着いた場所を好む傾向があった。

縁を切れ。意味から離れて、無意味へと近づけ。ダルマとなって身動きが取れないまま部屋の隅で横たわれ。そんなことを考えながら私は深い酔いから解放されるのをじっと待って部屋の中心に浮かぶ赤い電球を見つめていた。

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